銀土(原作設定)
□別離の日(銀ver.)
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こんな日が来るとは…思ってなかった。
あいつが俺の前からいなくなるなんて。
俺の傍に、何となくいるもんだと、思ってたんだ。
いつものようにあいつが誘ってきて、二人で飲んで…いつものように…あいつを抱いて…そのはずだった。
でも…
今日は、空さえも、泣いていた。
近藤について行く…と。
あいつはそう言った。
それが、当たり前の事なんだろう。
だから、何も言わなかった。
あいつが辛そうにしているのを、俺だけが知っていた。
だから、いつもと変わらず、雨の中待ってたんだ。
どんなに求めても、俺とあいつは…完全に交わることはねえ。
あいつをどんなに欲しても、俺にはあいつを手に入れることはできねえ。それでも…貪欲に、求めてしまっていた。
ガラガラ、と定食屋の引き戸を土方が開ける。
いつもながらせっかちな奴だ。
「寂しくなるねえ、銀さん」
「…別に、帰ってくんだろ」
「土方さんのお酒は、銀さんしか飲ませないからね」
女将はそう言って、あいつの後を追っかけた。
『俺は、忘れねェ』
ふと、土方の吐露した思いを反芻する。
俺だって忘れねーよ、土方君…
忘れたくたって、忘れられねーだろ…
引き戸を開けると、雨が強まっていて、番傘を差す。
土方は、雨の中でも傘を差して煙草を吸っていた。
「土方くーん、もう行くの」
「…」
何も答えず、あいつは視線だけを俺に流す。
「土方スペシャル食ったら、何か気持ち悪くなった〜どっかで休んでいこうぜ」
「…そりゃこっちのセリフだ」
いつものやりとり。
いつもの常套手段。こいつの、エロい顔を見るために、無様に誘う…俺。
「口の中が甘くてかなわねーや」
土方は舌をぺろり、と出した。
「そりゃこっちも同じだっての。口の中がマヨ祭りだっての」
俺はかったるい振りをした。
お互いに、くすっと笑う。
思えば、こいつと会って、色々なことをしたなあーと、思考を張り巡らせる。
瞳孔開きっぱなしの危ない黒髪だったのに
今では立派な真選組のリーダーだと、完璧に認めている…悔しいけど。
あと、すごーくエロいけどね。
もう、こいつを抱けねーのかな、そう思うと、何だかきゅう、と胸の奥が苦しくなる。
これで、最後か?
こいつの黒髪に触るのも…
薄い唇も…?
最後でもいい…
こいつに触れたい、そう思った。
囁く言葉は、吐息に消えて
甘い口づけは、官能的な喘ぎに変わる
こいつを知れば知るほど、深みに嵌って
陥れるはずだった俺が、逆に罠にかかって動けなくなっていた…
侵入すれば、快感の渦にたちまち包み込まれて
端正な顔が歪む刹那、黒に飲み込まれる
何度も何度も重ねあっても
溶け合えないことに苛立ちさえ感じた
「あっ…あっ…ぎん…ときっ」
「…土方…ひじか…た」
今まで何回、二人で絶頂を迎えたのだろう。
激しい快感の後、二人で確かめ合うように、抱き合う。
それでも尚、愛しい黒髪の気持ちは、分からないまま…自分の心もさらけ出せずに、いる。
あ
い
し
て
る
その一言は、言えないまま。
酒…全部飲みきったら帰って来る
そしたら
借りは返す…
だから必ず、待ってろよテメー
黒に侵食された俺の心を見透かしたように、俺の腕の中であいつは呟いた。
Fin.