その他CP
□Cry&Fight(高土)
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自分の目前に拡がる、一面の雲海。
その、目まぐるしく生まれては消えていく水蒸気の連続を、ぼんやりと見ているのは真選組副長土方十四郎だった。
(そうだ、俺…巡回途中で、襲われて)
甦る記憶。
遠くで、叫んでいる山崎の声がしていたような気がする。
完全に自分の失態だ、土方はそう思う。
重い頭は、何か薬品を嗅がされたのだという証拠でもある。
でも起きなけらば何も始まらない。
ゆっくりと起き上がると、こめかみのあたりに鈍い痛みが残っていた。
殴られている。
なんでこうなってしまったのか、ところどころ記憶が無かった。
薬品の残り香が自分の鼻腔に残っている。
「近藤さん…」
土方は呟き、自分の居場所を確認する。
何処なのだろう、と思いつつもここが空の上だと気づいたのは、今。
宇宙船らしいものに今自分が乗っている、というのが分かった。
縛られていたのだろう、手首に痕がある。
全く、めちゃくちゃしやがる、とそう思って土方はポケットに手をやる。
そこにはいつも入っている煙草が消えていた。
「ハッ…クソが」
最悪だ。攫われて自分の大将も守れないのに、煙草吸えない、ときたもんだ。沖田にどやされるな、そう思いつつ船の先に目をやる。
紫色の着物を羽織ったその姿。
三味線の事が、びゅうびゅうと風か吹きすさぶ合間から聴こえてくる。
ベベン、ベン…
ほんのりと香る煙草の煙。
苛つきを抑えられず、土方は叫ぶ。
「てめェは…高杉っ‼」
自分が帯刀していないことなどどうでもいい。
兎に角あの男が俺をここに連れて来たのは明確だった。
表情一つ変えない高杉は、そのまま三味線を弾き続けていた。
高杉の、口角だけがにやり、と上がっていく。
殴りかかるその瞬間。
「晋助様‼」
「晋助殿‼」
土方の喉元に突き付けられたのは、短銃と長い得物。
途端に動けなくなる土方。
その薄ら笑いから、明らかに表情が変化していく。冷酷な瞳と冷えた唇。その奥に潜む激しいであろう熱ー。
「晋助様に何かしたら、承知しないっス」
「素手で殴っていくのは美しくありませんねェ…真選組副長土方十四郎さん。貴方も私と同じ、フェミニストだと思っていたんですが」
武市変平太がそう言ったのを受けて、鬼島また子がすぐさま返した。
「それって、このキレーな顔の鬼副長も、ロリコン、て事ですか先輩」
「ロリコンじゃないフェミニストです」
…何だ、こいつらは。
まるでふざけちゃいるが、明らかに場数を踏んでいやがる…
動けないまま、土方は二人のやり取りを聞いていた。