おはなし

□SSSまとめ
1ページ/1ページ



*溢れる涙が止まらない(それでも現実からは逃げられない)

好きだ、とキドは身体を震わせた。抱きしめて僕も、と安心させるように言う。震えが大きくなって、肩に水滴が落ちる。壊れそうな身体に回す手に力を込めた。怖い夢を見たんだ、抱き返した彼女はお前が居なくなる夢、と付け加えた。僕はずっとここにいるよなんて言う嘘吐きの自分に、そっと涙を零した。


◇◇◇◇◇


*でもいつだって、求めたのは君の方だよ

ヨタカの鳴き声が満月の真夜中に響めく。仄かに照らされた闇のなかで、ふたりの男女の影が差す。
もうこんなことは辞めようと女は言った。このままだとお前との関係を失ってしまうと。男は無理矢理に唇を奪った。息の一つも漏らさぬように。女は抵抗しなかった。しゅうや。代わりに息が哀しく響いた。


◇◇◇◇◇


*もう少し夢見ていたかったなぁ

結婚しよう、キドにプロポーズしたら断られた。ツンとそっぽを向くキドとは喧嘩をしているわけでもない。愛されている確証はあった。リビングでいい雰囲気になった。だからプロポーズした。どうやら僕はキドの婚約の条件を満たしていないらしい。いつも謙虚な彼女が求めるものは、彼が選んだ婚約指輪。

*壊れていくあなた。(と私)

アスファルトを踏む彼の足を蹴った。それだけで彼は歩けなくなる。脈立つ心臓を掴んだ。本物の彼が浮き彫りになる。それでも嘘を吐こうとする口を塞いだ。ついでに、真紅の目も。動きでしか抵抗の意を示せなくなった彼はようやく諦めたようで力を抜く。パタリと倒れ込んだ彼を腕に抱いて、目を染めた。



◇◇◇◇◇

*泣いてないよ。笑えないけど。

「来月、アヤノと結婚します」
引きこもりのニートだった大っ嫌いな男が、頭を下げた。お前には先に言っとこうと思って、って。姉ちゃんが、この男と結婚する。いつまでも僕達の姉ちゃんでは居られないことは分かってた。「なんで、僕に」「お前だってキドとそういう仲だろ?っておい泣いてるのか?」



[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ