おはなし

□I lose myself in love
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I lose myself in love

僕たちは、停滞していた。
どこにも行けず、足首ほどの壁の前で立ち止まっている。
壁の先が見えなくて、落とし穴があったらどうしようとか幸せが待ってるかもとか。
どうしようもないことをぐだぐだ考えて、ずっと立ち止まっている。

錆び付いたブランコも。

パンクした自転車も。

ガソリンのなくなった車も。

色褪せた商店街も。

子ども一人っ子いない公園も。

街の至るところにそびえ立つ電柱や標識も。

困憊した恋心も。

みんな孤独で、どこか孤独であることを自ら望んでいるようだった。
僕たちもそうだった。
赤い目。化け物。こわい。くるな。
その3文字は、3人に虚無感を与えるのに充分で埋めようのない空白をどうにか満たそうと足掻き続けてきた。
足掻き続けた結果、能力も制御できるようになり、毎日みんなの為にバイトに勤しんでいる幼馴染は栗名月程度は満たされていた。
僕と翡翠色の彼女だけが空っぽだ。
世界から置いてきぼりにされた僕たちは噛み付いた。
大人に、烏滸がましい世界に、深く深く、抜けないように。
噛み付くことしか知らない子どもは、幼いころから共にいる少女までにも牙を向けた。
それが何年か前のはなし。
彼女の身体に、赤い華がぽつんと時にはたくさん咲いている。
朱を散らすのはいつも、外からは見えないところ。
所有物なんていいものではなく、一時的な感情を満たすためだけに咲いた華。
代わりに、どす黒い感傷を全身で受け止めた少女が隠れてしまった時には見つけた。
トランプでお城を作るときみたいに、揺らされればあっけなく崩れてしまう関係。
不安定な者同士が合わされば安定した。
いつだってキドを見つけるのは自分だけで、その役目は譲らない。
周りでは言わずとも暗黙の了解ができていた。


──なんてことを考えながら、カノは机の上で慎重にトランプのお城を建設していた。
積み重ねた台の上に、新しい台を築き上げる。
机に少し当たれば、崩れてしまいそう。

(これで、最後)

ひと息つく。
クローバーのAと3だけでできたお城。
君と僕の団員ナンバーと最も弱いカード。
もうひとりの幼なじみがみたら、

「俺だけ仲間はずれなんて酷いっす!!」

なんて拗ねかねないから完成しても自慢はできないなぁと、カノはふふっと息を漏らした。
スペードのAと3を大量に積み上げられたトランプの中から選び出す。
端と端を合わせ、慎重におこうとする。
気が緩んだのか、リビングや廊下から聞こえる地鳴りの音が気になってくる。

(これは、完成しないかなぁ)

バンッと勢いよくドアが開き、アジトを揺らした。
「海賊」と胸元に大きくプリントされたパーカーを着たキサラギちゃんがつばを飛ばしながら叫ぶように言った。

「カノさん!大変です団長さんがいないんです!!メモもなんにもなくて、財布もあるから買い物にも行ってないみたいで……」

つまり、僕に探して欲しいと。

「わかったわかった。すぐ探しに行くからキサラギちゃんはアジトで待っててくれる?」

わかりました!!扉も閉めずに嵐のように走り去った背中をみながら、手を離した。
はらはらと床に落ちるトランプを横目に、カノは積み上げたお城の、一番下の土台をつん、と押した。
音を立てて崩壊していく。



「さて、行きますか」

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