おはなし

□poker
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ネオンの眠らない夜。眠るどころか時間がたつにつれ明るくなっていく場所。
着飾ったご婦人やスーツで決めた男性方。ラフな格好をしているものなど一人もいない。
ここで浮いた格好などとしてしまえばたちまち追い出されてしまう。
耳をすませば聞こえてくる絶望した声や、正反対に喜びが溢れた声。汚い大人達の笑い声。
大金夢見て集う大人達の遊園地。

そう。ここは本来この国で禁止されているはずの賭博……いわゆるカジノが行われている場所だ。
大企業の社長からたまたま大金が手に入った人。
人によっては人生を掛けたゲームを楽しみに、己の欲のためだけに集う。
そんな欲で溢れかえった場所に似合わない歳の男女が一人ずつ。

翡翠石を思わせる綺麗な緑色の髪を一つに結い上げた、黒い肩出ドレスを来ているスレンダーな少女。
もう片方はどこか薄気味悪い笑顔を浮かべた若干背の低い猫毛の男。格好はラフなTシャツとジーンズに黒いパーカーを羽織っただけ。

ここにいる大人達の平均年齢は三十代から四十代。
それに比べてこの少年少女は大人っぽい服装をしているとはいえ、十代後半から二十代前半といったところだろう。
普通ならばこのカジノの従業員に見つかったり、客が知らせてしまえば即追い出される。

――そう、普通ならば。

「キードッ!ちゃんと僕も軽くメカクシしてる?」

「お前こそ完璧に欺けているのか?カノ」

「メカクシ」「欺く」
一般人なら聞いてもなんのことかさっぱりだろう。
この二つが追い出されない理由であり、彼らが普通ではない証拠。

黒い肩出しドレスを着た少女の名は木戸つぼみ。
もう一人の少年の名を鹿野修哉という。
傍から見ればこの二人はいない。いないというより認識されていないのだ。
黒曜石を連想させられる少女の目、飴色の少年の目が真っ赤に燃え上がるとき、能力が発動される。
木戸つぼみの持つ、目を隠す能力のおかげで。
さて、そんな普通ではない二人が何故こんな場所にいるのか。

この二人の目的はただ一つ。ポーカーゲームで生活費を稼ぐことだ。
まず、少年……カノが姿を欺き、この場所に相応しい、四十代くらいの立派なスーツをきた男性になる。
その時点で少女……キドは他の人から完全に姿を消し、カノの他の人からの認識も緩める。
これはできるだけ目立たないための大切なことであり、欠かしてはならないこと。
その後はカノがお金をもってそうな男性にゲームを申し込み、キドがその男性の後ろに回り込む。あとはゲームがスタートしたら男性の持っているカードの数字をカノに教える。ただそれだけ。ただ、それだけのこと。
キドはメカクシを見破れるカノにしか見れないのだから、ぶつかったりしない限りこのイカサマを見破られることはない。

「ハートのスリーカードだ。」

「僕はスペードのスリーカード。僕の勝ちだね」

チッと舌打ちをして、相手が積み上げたチップを僕のほうへよせる。
もう一度、とディーラーがカードを配る。


この作業を繰り返すこと約二時間。日付などはとっくに変わっており、そろそろ帰る時間だ。
キドがチップをお金に変えにいき、急いで店を出る。
別に急がなくてもいいのだが、嘘でできたような僕でも、この場所にはできるだけ居たくないのだ。

目標の金額は、最初の五倍。さて、今回の結果はなんと七倍。
目標の二倍も多いから、家に帰ったらキドにたくさん甘やかしてもらおう。何してもらおうかな?顔がにやけてくる。
危ない危ない、欺かなくては。キドに殴られてしまう。

お金を抱えて戻ってきたキドと、人気のない路地裏で一息をつく。
さすがに日常的に欺いてるカノでも、長時間、一度も解除せずに発動し続けるのはかなり体力を使うのだ。普段みたいに顔の表情だけを欺くのではなく、
全身を欺かなくてはいけないのだ。欺く部分が増えるぶんだけ、体力の消費量も増える。
だから帰宅する前の休憩は必要不可欠だ。

「セトもきてくれたらいいのにー!!」

「仕方ないだろ……こんな汚い欲で溢れかえった所で盗ませてみろ。即気絶するぞ」

「確かに〜気絶されても困るしね。アジトまでどうやって運べというのさ」

「毎日頑張ってバイトしてくれてるんだから別にいいだろ。お前も見習ったらどうだ。そろそろ行くぞ」

「はーい」

気だるそうに返事するカノの前にキドが立つ。
少女の目が赤くそまり、一瞬大気が揺らめき、
途端に姿が見えなくなる。
街の賑やかさは、まだ収まることを知らない。
それを横目に帰路へつく。さぁ、今夜も楽しめた。
次はどれだけ汚い大人の財布から金を奪い取ろうか。

でも、これは次の夜までのお楽しみということで。

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