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□誕生日の憂鬱
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ヴァンパイアにとって誕生日はこの上なく憂鬱な日であったりする
特に愛する者が人間であった場合は誕生日が憎くて仕方がない
相手は年を重ねていくのに、自分だけその時の流れにおいていかれる


誕生日ということを忘れてしまえば、何の変哲もない日だった
学校に行って勉強して、家に帰る
それだけなのに誕生日とはどうしてこうも憂鬱なのだろう

「誕生日か…」

帰り道につぶやいて自嘲した
いつもは一緒に帰るスミレが隣にいないのは、おそらく俺の誕生日パーティーの準備をしているからだ
スミレも隠し事が下手だと思う
サプライズでやるならもっと綿密にしないとバレバレだ
廊下でコウやアズサと話しているなんて警戒心がないにも程がある

でも気づいていても、今こうやって知らないふりを続けている俺はスミレに相当甘い


いつもよりドアが重く感じるのは気のせいだろうか
ため息が自然と漏れる


「うわぁぁ!」


おい、一体何だ
ドアを開けた瞬間に聞こえた声

スミレのものだと言うことは分かったが、すごく嫌な予感がする


そのままスミレの声が聞こえたほうに直行する
キッチンだ


「なにが………」


あった、と最後まで言えなかった
部屋にこもる甘ったるい香りと微かにする血の香り

俺の足元には真っ白になったスミレが座り込んでいた


「あ……るき…」


呆然と座り込んでいるスミレが俺を見上げた
お互いに何も言えないまま視線だけが重なっている

たぶん、というか絶対にケーキを運ぶ途中で転んだのだろう
あまりにドジすぎて何も言えない

なんと言うべきか言葉に迷っているうちに正気に戻ってきたスミレの目に涙が張ってきた
一粒溢れてしまえばあとは連鎖で、スミレの目からは次々と涙がこぼれていった


「ごめん…なさい」


大きな皿を抱えた真っ白な彼女が泣きながら謝る
そんな光景に笑いがこみあげてきた


「…っくく…」


もう怒るとかうんざりとかそういう問題ではなくて、スミレが愛しくて仕方ない


「俺は別に怒ってないし、怒る気もない…っ」


俺はしゃがみこんで彼女と視線を合わせた
クリームまみれだ


「本当は…ケーキを作って、ルキの誕生日お祝いしたかったの…」

「知ってる」

「でも…」

言葉に詰まったスミレの目元を指で拭う


「泣くな、それにケーキはここにあるだろう」


スミレの指についたクリームを舐めれば、スミレの顔は真っ赤に染まった
苺みたいだ


「こんな誕生日もなかなかないからな…楽しませてもらうとしよう」

「ちょっと…まっ…ルキ?」

「甘いな…」


個人的には普通のケーキよりもこっちのほうが好きだ


「せい…ふく…クリームで汚れるからっ…」


制止をキスでふさぐ
制止しておきながらキスにこたえるスミレはずるいと思う


「ねぇ、ルキ」

どちらがクリームまみれなのか分からなくなったころ
彼女が俺を呼んだ

艶っぽい目が俺を捉えた


「誕生日おめでとう」

「………」


ありがとう、とは言えなかった
彼女のキスに塞がれてしまったから


「今夜は誕生日満喫することにしよう」


不意打ちのキスにやられっぱなしは癪だ
スミレを抱き上げて部屋へと向かう


「え?待って…ルキ?何するの?」

「何って…ケーキを食べるに決まっている」





長い長い誕生日パーティーの始まりだ



こんな誕生日も悪くないな




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