虎牛設定(補完)

□その4
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虎は、子牛の体に巻かれたリボンに手紙のようなものが挟まっているのに気が付いた。

ズカズカと近づいていくと子牛はまさに"この世の終わり"みたいな顔で怯えるが、それはとりあえず無視する。

しゃがんで手紙を取り、

"よう、銀時。ヅラと坂本から聞いたてめーの欲しいモノを用意してやったぞ。ありがたく受け取れ"

と書かれているのを読み、反省と怒りと落胆を混ぜた気分になった。

どうやらコレは猪の仕業で、竜と鳥は無実だったらしい。

おまけに猪の仕業なら、"牛乳を欲しがってるのに子牛を送ってがっかりさせる"以外の嬉しくないサプライズがある、ことも察した。

怯えた子牛をじっくり観察してソレが何か分かった。

「おい」

「………はい」

声をかけられてビクビクしている子牛は、消え入りそうな声で返事をする。

小さくて"見分け"はつかないけれど、銀時は最重要事項を確認した。

「……お前……オスだろ」

「……はい……」

「やっぱりかよぉぉぉぉぉぉ!!! そうだと思った! 絶対そうだと思った! 高杉ぃぃぃぃ!!!」

早々にバレても、後になってバレても、虎にショックを与えることができる、高杉らしいやり方だ。

怒れる虎を前に子牛はもう失神寸前なぐらい怯えている。

それに気付いた虎はふぅと溜め息をつき、ぐるぐる巻きになってきるリボンを解いた。

硬直していた子牛だったが、そのまま虎が側から離れ、

「ほら、行けよ」

そう言われてしまい、きょとんとする。

おまけに、自分の誕生日のことで誘拐されたり怯えさせたり、すまなかったと思うのか優しげな顔で解放してくれた。

「……悪かったな。食ったりしねーから、もう帰れ」

「…………」

食われると覚悟して怯えていた子牛は、疑いながらも落ち着いたように見えた。

が、さっさと逃げ出せばいいのに動こうとしない。

「どうした? ……ああ、帰り道が分かんねーか?」

猪に誘拐されてきたのならさもありなん、と虎は面倒くさいという顔をするが事実はもっと面倒くさかった。

子牛は寂しそうにぽつりと呟く。

「……帰るとこ、ない」

「…………はい?」

「山が崩れて……みんなも、家も……無くなった……」

子牛にとっては辛い現実。

口にしたら思い出してしまって悲しくなったのか、子牛は顔をぐしゃぐしゃにして泣き出した。

どこかで山崩れがあり、その麓にあった子牛の棲む集落が飲み込まれ、生き残った子牛を猪が連れてきてここに置いて行った。

状況だけみると、子牛を連れてきた猪が善、追い出そうとする虎が悪、ということになる。

『なにアイツ!? 良いヤツなの、悪いヤツなの!? 相変わらずわかんねーヤツだなコノヤロー!!!』

どちらにしろ虎にとって迷惑なヤツなのには変わりない。

泣きじゃくる子牛を見下ろし、虎は頭のなかでいろんなことを一気に考えて、苦々しい表情で決断した。

子牛の首根っこを掴んで持ち上げると、

「うるせー。外で泣かれると近所迷惑だから、家の中で泣け」

言いながら家の中に戻り、その辺にあったタオルを頭からかぶせて外に出た。

どんなに騒ごうとも迷惑になるご近所さんなんていない。

せっかくの"誕生日の贈り物"なのだから受け取ってやらないと悪いだろうが、と自分に言い訳する虎だった。



 おわり



続きを考えたような、考えなかったような。
リボンを巻かれた子牛が可愛いと思いました。
……それだけかよっ!

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