虎牛設定(補完)

□その3
2ページ/23ページ




「遅かったじゃねーですかぃ。牛だからってのんびりし……」

戻った早々に嫌味を言うために姿を見せたネズミの総悟は、十四郎が一人じゃないのを見て眉間にシワを寄せる。

片手に子供、片手に鞄を2つ、ヘトヘトになっている十四郎に向かって、

「そのガキ……まさか誘拐……」

「するかぁぁぁぁ!!!」

どれだけ大変だったかもしらずボケる総悟に大声で怒鳴ったら、眠ったままの子供がぱっちりと目を開けた。

辺りをキョロキョロ見回したので、今度こそ親の姿がなくて泣き出すかと思ったのに、十四郎を見て安心したような顔をする。

すっかり十四郎に懐いた様子に、

「まさか隠し子……」

「んなわけあるかぁぁぁぁ!!!」

やっぱりボケる総悟に力いっぱいツッコミを入れる十四郎だった。

その怒鳴り声を聞いて牛の近藤が奥の部屋から出て来て、十四郎が帰ったことにホッとしながらも、見慣れぬ子供の姿に驚かされる。

「トシ、良かった。遅かったから心配………なんだ、その子供」

「近藤さん……実は……」

事情を説明すると近藤はうんうんと頷きながら、

「そうかぁ、そいつは心配だなぁ。親が見つかるまでここで面倒見てやったらいいんじゃないか」

と優しいことを言ってくれたのだが、それに反論したのは総悟だった。

「ちょっと待ってくだせぇ。おのガキ……もしかして虎の子じゃねーですかぃ?」

「と、虎?」

「むかーしこのあたりにも居たらしい肉食動物でさぁ。黄色い毛皮に黒いシマ模様があったそうですぜ」

“肉食”という恐ろしい動物がこの辺りから姿を消して随分経つため、虎なものの存在は知らない。

だがこの子供は確かに特徴は似ているし、もし虎の子供なのだとしたら、その親は“肉食動物”ということになる。

十四郎の顔色がさーっと青くなった。

もし親がこの子供を捜していたとしたら。探し出してここへ来てしまったとしたら。

「お、俺……近藤さん、すまねぇ……すぐに元の場所に……」

戻って置いてくるのか?

そんな考えが十四郎の脳裏に走るが、抱き上げたままの子供がぎゅっと自分の肩に掴まっている。

その手は温かくて、泣いていた姿、牛乳を飲む姿、寝ている顔を思い出したら、そんなことできるわけがなかった。

だけどここのみんなを危険に晒すわけにもいかない。

十四郎の葛藤を、近藤が先に察してくれる。

「まあまあ、こんな小さいのを道端に置いてこれないだろ。だけど虎にウロウロされるのも困るしな……交代で虎が現われないか見張ることにしよう。姿を見かけたらすぐに子供を返してやれば、立ち去ってくれるかもしれない」

それで危険を必ず回避できるわけではないのだが、十四郎としてはかなり気が楽だ。

「…ありがとう、近藤さん」

「だっはっはっは、なんとかなるなる」

楽観的な近藤に、総悟は呆れ顔で言った。

「近藤さんは甘ぇや。そのガキの面倒は誰が見るんですかぃ」

「そりゃあ、みんなで……」

「俺は嫌ですぜぃ。ガキの世話なんてごめんでさぁ」

「大丈夫だ、俺が面倒見るから」

「トシが忙しいときは手伝うからな。無理すんなよ」

それから見張りを誰に任せるか、とか、虎が現れたときのために足の速い奴が良いな、という話し合いをしたあと、近藤がふと気が付く。

「そういや、名前はどうする?」

「近藤さん、ずっとここにいるわけじゃねーんだから、どうでもいいんじゃねーですかぃ」

「だけどなぁ、子供とかガキとか…虎の子とかじゃあんまりだろ」

確かに名前がないと不便だなと十四郎が腕の中の子供を改めて見たら、履いていたもこもこのパンツの端が少しめくれて何か書いてあるのが分かった。

抱き変えてその部分をめくってみると、達筆で“銀時”と書かれていた。

「…名前、かな?」

「“銀時”か……髪が銀色だしな、そうかもしれないぞ」

「銀時」

名前を呼ばれていると分かったのか、十四郎が呼びかけると子供は嬉しそうに笑った。



.
次へ
前へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ