虎牛設定(補完)

□その3
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#29

作成:2019/08/27




月一で遠くの町までの買出しは虎の役目だった。

まだまだ発達途中の虎でもここいらでは珍しい肉食動物だったので、ちょっとタチの悪い獣が出る道でも安全に出歩けるためだ。

"実は肉が食えません"というのは言わなきゃバレない。

まあ、町に入ってみたらあちこちからいろんな動物が集まっているので、大人しくしていれば虎といえど恐れられることはないのだが。

村の連中から頼まれた、近場では手に入らない食料や道具などをすべて揃えて、虎は町をプラプラと物色。

行き倒れている自分を拾い村に住めるように頑張ってくれた、可愛い可愛い牛へのお土産探しだ。

田舎育ちなので珍しい物は何でも喜んでくれるけれど、もっと何か嬉しがるものがいいな、と探していた。

そしてある店先で足を止める。

「……これは……」

懐かしさと寂しさと嬉しさを呼び起こしてくれるソレを手に取った。




「おかえりっ、銀時!」

「ただいま」

満面の笑みで迎えてくれる牛を見て、虎も自然に笑みが零れる。

遠い町への一匹旅は心配だと着いて来たがる牛を説得し留守番させているから、帰ってくるまで元気がないと村の連中に聞いていた。

そりゃあ牛と二匹旅はとても楽しいだろうけれど、何かあったときちゃんと守れるか自信がない。

だから後ろ髪引かれる思いで置いて行くから、虎が帰ってくると本当に嬉しそうな牛に虎もホッとする。

「ほら、頼まれたもん」

鞄の中から牛に頼まれた物を取り出すと、ばびゅんとものすごいスピードで持ち去られた。

手の中の黄色い食品を、キラキラした目で見つめ、口にはヨダレが垂れている。

「マヨリーンのマヨネーズぅぅぅぅぅ!! ありがとう!! 銀時!!!」

自分が帰ってきたときより嬉しそうだ、と思うとちょっと嫌味も言いたくなってしまう。

「……自分で作って食ってるくせに……マヨネーズなんてどれも同じだろ」

「違うって前にも言っただろ!! マヨリーンのマヨネーズは特別なんだ! こう、コクがあってまろやかで……ふふふ……」

いつもはぽやんとしてる感じの牛なのに、この話になるとものすごく熱く語り出そうとし、その途中で"思い出しうっとり"になる。

自分で作ったマヨネーズは「うえっ」と思うぐらい盛って食べるのに、マヨリーンのマヨネーズは大事に大事にちょっとづつ食べるぐらい好きなのだから仕方ない。

銀時は溜め息をつきつつ、もう一つの土産を鞄から取り出した。

「じゃあ、これは俺だけでやっちまうかなぁ」

「!!? 何ソレ!?」

マヨネーズを大切そうに抱えたまま、牛は興味津々な顔で近づいてくる。

細長くて軽そうな紙袋に入った"牛のために買ったお土産"からは、あまり嗅いだことのないような匂いがした。

「これは夜のお楽しみ」

「夜ぅ?」

お預けをくらってガッカリする牛に、虎は"お楽しみ"を想像してワクワクするのだった。


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