虎牛設定(補完)
□その3
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#26
作成:2018/12/25
24日の深夜、虎は真っ赤な衣装を着て牛の家にやってきた。
ずっと一匹で生きていた虎だったので、初めて腰を落ち着けたこの村で"クリスマス"という浮ついた行事ごとに参加してみたかったのだ。
こっそり用意したサンタの服を着て、わくわくした気分で牛のところへプレゼントを届けに来た。
そーっと忍び込んだ牛の寝室にはあいにく"くつした"は無かったので枕元に置こうとしたら、ベッドで寝ていた牛の目がぱっちりと開く。
ギクリとした虎だったが、牛が全然動かないので"目を開けてるけど寝てました"というオチかと思ったら、
「……銀時?」
そう都合良くはいかないようで名前を呼ばれて内心でがっかりする。
まあバレてしまったらしまったでいいや、と、
「と、十四郎! メリークリスマス! プレゼント持ってきたぞ!」
明るくそう言ったのだが、十四郎はきょとんとしたままだ。
それもそのはず、
「……めりーくりすます、って何だ?」
「…え……クリスマスおめでとう、って感じ?」
「……くりすます、って何だ?」
どうやらクリスマスを知らなかったらしい。
「えぇぇぇっ!? く、クリスマス知らねーの!?」
「知らねー。なんだ? プレゼントくれるお祭か? あ、その服もくりすますの衣装なんだな!?」
牛は虎の派手な服装を見て勝手にお祭と勘違いして嬉しそうに笑った。
虎は察して納得する。
どうりでこの町の誰もがツリーだのケーキだのサンタだの、クリスマスの準備をしていないはずだ。
この村はかなり田舎なのでクリスマスという行事自体が伝わっていなかったのだろう。
牛はニコニコしているけれど、一人で盛り上がっていた虎は自分が恥ずかしくなってしまった。
「……も、もういい……」
「えっ、虎? くりすますってなんだ、説明してけっ」
がっかりして帰ろうとする虎を、牛が驚いて引きとめた。
当然だ。
寝ていたところを起されて、楽しそうな話だけ残して帰ろうとするのだから。
仕方ないので虎は説明してやる。
「クリスマスっていうのは、詳しくは面倒だし難しいから省略するんだけど、サンタクロースっていう爺さんが毎年、良い子にプレゼント届ける、っていう……お祭なんだ」
牛にも分かりやすく都合の良いところだけを説明したら、ちゃんと分かってくれたらしくぱあっと嬉しそうな顔をした。
「じゃあ銀時はそのさんたくろーすって爺さんの手伝いをしてるのか?」
「そ、そういうことだ」
「じゃあ、俺が良い子だったからプレゼントをくれるんだ!」
期待に満ちた目で見つめられたので、"ガッカリ"は忘れて当初の予定通りにプレゼントを渡すことにした。
袋の中には牛の大好きなマヨネーズを持ってきたのだが、もったいぶって訊ねる。
「そうだよ。十四郎は何が欲しい?」
「マ………」
思ったとおり牛は大好物の名前を言おうとしたはずなのに、何故か途中で止めてしまった。
自分をじっと見つめたままの牛に、虎は首を傾げる。
「十四郎?」
「……へへ、俺、さんたくろーすからのプレゼントはいいや」
「な、なんでだよっ」
予想外のことを言われて動揺する虎に、牛は満面の笑みで答えた。
「だって、俺、良い子にしてたから銀時に会えただろ。だからもうプレゼントはいいんだっ」
本当に本当に嬉しそうに牛がそう言ったので、
『……か……か……可愛いぃぃぃぃぃ!!!』
虎の心にきゅんとときめく何かが生まれたのだった。
メリークリスマス!
おわり
ふぅ、今年も牛虎でクリスマス、なんとかなった(笑)