虎牛設定(補完)

□その3
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#25

作成:2018/11/10




「さ、さささ、ささささっちゃんと、つ、つつつ、つきあって、や、やって、く、くださいっ」

よくやく届いた声はそう聞こえた。



はぐれ虎の銀時がこの森に住むようになって1年近く。

虎の悪名は、虎が生息しない地域にも広まっているらしく、銀時を歓迎してくれる動物はいなかった。

それでも一匹でプラプラしていた銀時はそんなことは全然平気で、良い感じの簡素な家を作っ
てのんびり暮らしていた。

そこに誰かの気配が混じってきたのが半年前。

匂いから若い猿の雌だというのは分かった。

遠くから双眼鏡で覗いたり、近くに来たのに気づいたらものすごい速さで逃げたり。

何をしたいのか分からない、と銀時は面倒くさそうに無視を決めた。

なのに今日、また別の気配が侵入してきたのだ。

かなり遠くからゆっくり、というより恐る恐る近づいてくる。

1時間後、ようやく届いた匂いは若い牛の雄だ。

牛はじわじわと近づいてきて、銀時が家の外に出ても逃げる様子がない。

ので、もっと近づいてくるのを手作りのおやつを食べながら待ってみた。

そして銀時へ一番近い木までたどり着いた牛は木の後ろに隠れたまま、蚊の鳴くような声で何か話しかけてきた。

当然、声は小さいし、遠いしで聞こえない。

「聞こえねーよ」

そう言ってやったら虎が声をかけてきたことに驚いたのか、しばらく木の後ろでびくびくしていたが、再度何か言ってきた。

それを何度か繰り返し、ようやく聞こえてきたのが冒頭のセリフだ。

「さっちゃん?」

「さ、さささ、さるのさっちゃん、で、です」

「猿だぁ? ふざけてんのか?」

「ち、ちちち、ちがうっ! さ、ささ、さっちゃんは、お、おお、お前のことが好きなんだって!」

どうやら銀時を遠巻きに見つめていた猿はさっちゃんと呼ばれていて、虎と付き合いたいと思っているもの好きらしい。

そんなことを言われても面倒くさいので、

「食われたくなきゃ、やめとけ」

と虎の特性(?)を断る口実に使ったのだが、それは効果がなかった。

「さ、さっちゃんが、お、お前はずっと誰も殺して食ってないって言ってた! だ、だから、食われないから平気って……」

半年も銀時を追いかけまわして得たらしい猿の情報は当たっていた。

虎としてはかなり異質のため、一匹でぷらぷらと生活をしてきたのだ。

食われないと聞いていても半信半疑なのか怯えている牛が、久しぶりに会話をした動物になる。

脅かすことを止めて普通に話かけてみた。

「お前は?」

「お、おお、俺?」

「名前」

「……と、とと、十四郎!」

「ふーん。俺は銀時だ」

「……ぎ、ぎんとき……」

名前を聞かれ、名前を教えてくれたことが意外だったのか、十四郎は木の後ろからそーっと顔を出して銀時を見る。

だが、銀時と目が合うとさっと隠れてしまった。

そしてまた木の後ろから声をかけてくる。

「さ、ささ、さっちゃんに頼まれたんだ! 付き合ってくれるか!?」

怯えながらも目的を果たそうとチャレンジしてくる精神は立派だったが、

「嫌だ。帰れ、バカ」

そう冷たく拒否されると、がっかりしてすごすごと引き返して行った。

これでまた静かな一匹の生活が戻ってきたと、銀時はやれやれとため息をつくのだった。


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