虎牛設定(補完)

□その3
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#23

作成:2018/09/11




森の奥深くに、虎が一匹で住んでいた。

他の動物から警戒されたり怖がられたりするのが面倒で、一匹で引き篭もって数年。

むかーしからの友人がたまに訪ねてくる以外は、誰とも会うことはなくても割と平気だった。

そんな虎のところにひょっこり現れたのは1匹の小さな牛。

「たのもー!!!」

家の外で何やらそう叫んでいる声がしたが、虎は久しぶりの甘味を口に運ぶ瞬間だった。

ので、当然無視した。

口の中いっぱいに広がる甘味にうっとりしていると、再び、

「たのもぉぉぉぉぉ!!!」

と声が聞えてきて、虎は眉間にシワを寄せながらもやっぱり無視した。

だが結局甘味を食べ終えるまで叫ぶ声が続いたため、虎はようやく扉を開けて返事をする。

「うるせぇぇぇぇぇ!!! 勝手に"頼んで"んじゃねぇぇぇぇ!!!」

怒っている虎が怖かったのか、庭で小さな牛が目を丸くして固まっていた。

声から子供のような気はしていたが、本当に小さい牛で、自分から訪ねてきたくせに怖がるとは失礼な牛だ。

虎に睨まれてぴゅーっと逃げ出すかと思いきや、牛は顔に気合を入れなおして睨み返してくる。

「居るんならさっさと出てこいよ!!」

「あぁん? なんだぁ、こら、泣かせるぞ」

「な、泣かねぇ!!」

ビクビクしているところを見るとやっぱり怖いのだろうが、牛は気丈に……というよりムキになって虎に言い返す。

どんなに息んでみても所詮は子牛だし、虎のほうは白けてしまって逆に落ち着いてきた。

大きく溜め息をついてから言う。

「で? 何を"たのもー"してたんだ?」

「…………あ! そうだ! 俺と勝負しろ!」

「……は?」

「俺と勝負だ! そして俺が勝ったら、お前の弟子にしろ!」

予想だにしていないとんでもないことを言われた。

だが牛が本気であることは表情を見れば分かるので、虎は呆れながらもう少し付き合ってやることにする。

「なんで俺がおめーを弟子にしねーとならないんですか」

「お前、虎だろう!!」

「うん」

「だからだ!」

さっぱり分からない。

「……お前は牛だよね?」

「そうだ!」

「なーんで牛が虎の弟子になりてーんだよ」

「決まってるだろ! 俺は"でんじゃー"で"ばいおれんす"な猛獣になるんだ!」

本人は本気で言ってるようだし、顔も真剣だ。

だが、立派な角のある大人ならともかく、ちんまりとした角しか生えてないワンピースの似合う子牛に言われても説得力どころかギャグにもならない。

虎はもう一度溜め息をつき、

「あと10年たってから来い」

そうとだけ言って家に戻ろうとしたら、背後から殺気を感じた。

振り返ると、牛が庭に落ちていた良い感じの棒切れを構えて、虎を見据えている。

「うるさい! 今、勝負しろ!!」

鬼気迫る、と言えなくもない牛の"気"に、虎は感心して観念して面倒になった。

「……分かった」

そう言ってまだ気合の入っている牛に向かうと、あっという間に牛の手から棒切れを叩き落とし、足を軽く払って地面に転がしてしまう。

どんなに鬼気迫ろうとも、やっぱり牛は牛だ。

「はぁい、終了ぉ」

そして牛を放ったまま家の中に入ってしまった。

残された牛はしばらくぽかんとしていたが、軽くあっさりすっぱりとあしらわれたことに気付き、

「……っ……ま、また明日来るからな!! 覚えてろ、こらぁ!!!」

そう叫んで渋々帰って行った。

牛の気配が消えたのは良いが、

「また明日? まじでか」

面倒なことになったなと溜め息をつく虎だった。


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