虎牛設定(補完)
□その2
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他にやることもなくてダラダラと十四郎の帰りを待つ。あの手紙の感じだとすぐ帰ってくるだろうと思った。
のに、夕方になっても帰宅せず、心配になって探しに行こうかと過保護な気持ちになっていると、入り口のドアがノックされた。
十四郎ならノックするわけがないので、何かあったのかと駆け寄ってドアを開けると、
「新八、神楽……十四郎?」
新八と神楽を前に、十四郎が背中を向けて立っていた。そして甘い匂い。
「銀ちゃん……ごめんアル」
「あ? どうした?」
「あの、頑張って何度も試してみたんですけど……どうしても上手くいかなくて……」
「だから、何が……」
しょんぼりしている三人に意味の分からない銀時が戸惑っていると、新八と神楽が避けて十四郎が前に出てくる。その手には甘い匂いの正体がのっていた。
白い生クリームと飾りに並べられた苺。それだけ見たらケーキだったが、ぺたーんぐにゃーんとした形から、どうやら中のスポンジが全然膨らんでいないようだ。
十四郎が眉と耳を“ハの字”にして、悲しそうな声で言った。
「お前が作ってたようにやってみたのに、どうしてもふわっとならなくて……何度やってもダメで……」
銀時が甘い物好きの趣味と実益を兼ねて何度かケーキを作ったのをじっと見ていた十四郎が、神楽と新八と一緒にそれを真似て作ってみたらしい。
見よう見真似でできるほど菓子作りは簡単じゃないと小言を言う前に、疑問が1つ。
「……なんでケーキ?」
それと、なんで失敗したとしょんぼりしているのか、銀時に謝ったのか。
十四郎が落ち込んだまま呟くように答えた。
「……銀時……誕生日知らないって言ってただろ……だから、初めて会った日……ここで暮らし始めた日を誕生日にしようって思って……超甘いケーキ作ったら喜ぶかなぁ……って……」
今日が一年目だったのか、と銀時はさっきまでずっと寂しかったのが吹き飛んで胸が熱くなる。
三人は銀時を喜ばそうとこっそり計画して張り切って作り始めたのだろうが、失敗して時間もなくてしょんぼりしながら帰ってきた。
それを思うと愛しくて嬉しくて仕方が無い。
「新八、神楽、十四郎」
名前を呼ばれて3人が顔を上げると、銀時は胸に湧いた気持ちのままに笑った。
「ありがとう」
釣られて三人も笑顔になる。
それから四人でケーキを囲んでみた。見た目は悪いが味は美味いというオチもあるが、
「……銀時……美味いか?」
「ううん。不味いっ」
情け容赦なくきっぱり言い切ってしまえるほど不味かった。
ショックを受けている三人に、銀時は笑いながらケーキを切り分けて押し付ける。
「食べ物粗末にすんな、責任もってお前らも食え」
「……うう……不味いアル……」
「甘いし苦いし堅いし…」
「……ま、マヨかけても不味い……」
初めての誕生日はいろんな意味で忘れられそうにない。
銀時は、明日は口直しに美味しいケーキを作ってやりながら正しいスポンジの作り方を教えてやって、これから何度でも誕生日をお祝いしてもらおうと思うのだった。
おわり
虎牛の銀誕でした。銀土要素が非常に少ないまま終わってしまいましたね。
ちゃんと説明を書くともっともっと長くなりそうだったので、
いろいろ省いちゃったりなんかしてしまったので意味不明があったらごめんなさい。
虎牛はどうしても子供イメージが強くて、今回も15,6歳でお願いします(笑)