虎牛設定(補完)

□その2
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#12

作成:2016/11/04




「もうこのあたりにエサは無くなってくる。もっと南に移動しよう」

大人達の話し合いで、春の間から秋まで滞在したこの土地から移動することが決まり、準備の最中に十四郎はこっそり群れを抜け出した。

何度も往復した森の割と安全な道を駆け抜け、いつもの待ち合わせ場所へ急ぐ。

そこには小さな池があり、草むらに隠れていた生き物が十四郎の気配を察して飛び出してくる。

「とうしろっ」

黒と黄色の模様をした小さい生き物は、嬉しそうな顔で名前を呼んだ。

春にここへ辿り着いた牛の群れの中で、子牛たちの年長者であり面倒を見るリーダーになっていた十四郎が、危険なところがないか探検していたところで行き倒れの生き物を見つけた。

その生き物が、肉食の虎と呼ばれる天敵だというのはすぐに分かったが、まだ生きている小さな体。

子牛たちに囲まれて暮らしてる十四郎にはそれを放置することができなかった。

まだ子供のようだから牛乳でいいだろうかと持ち出したそれを与えると、虎はゴクゴクと飲み干し喋れるようになった。

となると気になるのは、この虎の親とか仲間が近くにいるんじゃないかということ。

しかし訊ねると小さな虎はしょんぼりとして答える。

「居ない。俺、捨てられたんだ」

面倒を見てくれる大人が居なくなり、自分で食料も調達できずに行き倒れた、という訳らしい。

銀時という名前があったしちゃんと親は居たらしいが「一緒には連れていけない」と言われ置いていかれた、と。

どうやら嘘を言っているようでもなく、どんな理由があったのかは知らないがこんな小さな子を捨てていくなんて、と十四郎の正義心が痛む。

だが小さくても虎は虎。

もしものことを考えて群れに連れていくことはできず、毎日こっそりと食事を運んでやった。

世話を焼いてくれのが嬉しかったのか、虎は十四郎が来るのを待ちわび、そして楽しそうに笑っていた。

だが、夏が過ぎても暖かい日が続いていたのでこの森に長いしてしまったが、牛の食料になる草が無くなれば滞在地を移動しなければならない。

今日の牛乳を渡してそれを飲む銀時に、そのことを告げた。

途端に、ずっと笑顔しか見せなかった銀時の顔が悲しそうに歪む。

また置いていかれると思った虎が、一生懸命言葉を探して言った。

「とうしろがここに残ればいいんじゃね? とうしろのご飯ぐらい俺が集めてくるしっ」

どうしても離れたくないという気持ちが伝わってきたけれど、そうしてやることはできない。

十四郎には村の仲間達も、まだまだ小さな子牛たちも放っておくことはできなかった。

だけど虎を連れて行くこともできない。これから大きくなっていくだろう虎を群れのみんなが受け入れてくれるとは思えないからだ。

軽い気持ちで銀時の面倒を見てしまった自分のせいだと悩む十四郎に気付いたのか、銀時は表情を曇らせたまま尋ねた。

「……春になったら戻ってくるか?」

「……来年の春は無理だ。4,5年周期で移動してるからな」

牛の歩みは遅いので毎年同じ場所を移動するのは無理なので、広い世界をゆっくりと回っている。

それを聞いて銀時は、

「……待ってる、から、また戻って来いよな」

小さな手をぎゅっと握り締めて泣きたいのを堪えてそう言った。

こんなことになるならあのまま小さな虎を放置しておけばよかったとは思わない。

守るのが仕事の十四郎だから、虎の子供とはいえ助けて守って、元気になってくれたのは喜びだった。

小さな身体を抱き締めて、

「ああ。お前がもっと大きくなるころに戻ってくるから、それまで頑張れ」

そう言ってやったらぎゅーっとしがみ付いてくる銀時に、十四郎の胸も痛んだ。

牛が虎の成長を心配するなんて滑稽な話だったが、いつか戻ってくる日まで元気でいて欲しいと願うしかなかった。



 おわり



それだけかい!(笑)
すみません。五年後もちらりと考えてはいるんですがタイムアップっす。
本当は虎が牛を置いていく話だったんですが、季節がら移動するなら牛だろうと。
めずらしく牛が年上です。16ぐらい。虎は7歳ぐらいで……萌え(笑)

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