虎牛設定(補完)
□その2
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#10
作成:2016/09/08
陽も高く昇った時間にふかふかの羊毛布団からようやく抜け出し、虎は大きく背伸びをした。
特異体質のため群れから追い出され一人旅をしてきた虎だったが、今は割りと豪華な家で前述のようにのんびり過ごしている。
旅の途中で「天竺を目指している」と言う変な龍と変な羊に出会い、立ち寄ることがあったらこの家を自由に使って良いと言われた。
たまたま辿り着いたその家はインテリアも変で、旅の途中ということもあり長居をするつもりはなかったのだが、“2つの理由”が虎を足止めしている。
「あ〜〜、腹減ったな。何か収穫してこよ」
腹をさすりながら庭に出た虎は、あちこちに植えてある果樹や野菜から食べごろなものを選んで取り、それを上手そうに口に運ぶ。
1つ目の理由。
「エリザベスは神の手を持っているからな」
と龍がドヤ顔で言った言葉の意味を、ここに来て知った。
世話もしないのに収穫の時期が違う植物たちが、たわわに実って食料に困らないのだ。
どうやらあの変な羊が世話をした植物が、無節操に実をつけ続けているらしい。
「お、マンゴーも食べごろだな…………十四郎に持って行ってやるかな」
そしてもう1つの理由。
この家に住み始めて数日目、麓の村を覗きに行った虎は一匹の牛に出会った。
白いワンピにカウベルを付けたでっかい目をした牛は、虎を見て物珍しそうに、
「てめー誰だコラァ」
因縁をつけてきた。
容姿とは裏腹の口の悪さに虎の胸はときめき、
『美味そう……食いてぇぇぇ!!』
“始めて”そう思った。
特異体質とは、虎のクセに肉が食えないことだ。
幼少時、与えられた血の滴る肉をどうしても食べることができなかったため、親や群れの大人たちに捨てられてしまった。
それでもなんとか子供一人で生き抜いてきた虎は、あるとき行きずりの占い師にこう言われる。
「お前には“運命の餌”が居るんだよ。食いたいと思える獲物に出会い、それを食べれば本来の味覚に戻るだろうよ」
衝撃を受け、それから“運命の餌”を探して旅を続けていた虎は、ここで牛に会ったのだ。
始めて感じた食欲。
すぐに襲って食ってしまっても良かったのだが、あまり肉付きの良くない牛は食べ応えがなさそうで、ようやく見つけた獲物をもっと肥え太らせてから食べることにした。
この庭から美味そうな野菜や果物を、こっそり麓に下りては牛に貢ぐ。
見知らぬ動物に虚勢を張っていた牛も、美味しい物をたくさんくれる虎に懐いてくれるようになった。
長居する予定のなかったこの地で、もう1年も暮らしている理由はそんなところ。
マンゴーを抱えていそいそと山道を降りていた虎。
日々成長する牛にご満悦の虎だったが、その美味しそうな牛は、
「……!!!? 十四郎!?」
道に行き倒れていた。
駆け寄って抱き起こすと、白いワンピは薄汚れ、頬はげっそりと痩せ細っている。
『あああああ、俺の育てた肉がぁぁぁぁ!!』
どうやらここまで一人で来たらしいが、小高い山の上にあるこの場所は、牛がたやすく登ってこれるような道ではない。
よく見ると足や腕にも擦り傷があり、苦痛に顔を歪め牛は、虎の腕のなかでゆっくりと目を開けた。
「……ぎん…とき……」
「十四郎!どうしたんだ!?」
「俺……もうダメだ……」
「十四郎!!」
震える指先を虎の頬に伸ばし、牛はかすれるような声で、
「……ま……」
「ま!?」
「……マヨ……マヨがっ……」
そう言って牛は気を失った。
緊迫感の欠片もない単語で果てた牛に、虎の叫び声がこだまする。
「マヨがどうしたコノヤロォォォォ!!!」
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