虎牛設定(補完)

□その2
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#8

作成:2016/02/12




まだ肌寒い動物達の森。

虎はソワソワとしながらマヨサラダを食べている牛を見た。

今日はバレンタインデー。一匹であちこちを旅してきた銀時はそういう“お祭り”があるのを覚えていた。

好きな人にチョコを贈る、好きな人にチョコを貰う。

そんなものは自分に関係ないと思っていたが、十四郎を好きになってこの森に住むようになった銀時には大事なお祭りだ。

あいにくこの森は田舎なのでそんなハイカラ(死語)なお祭りは伝わってきていない。

なので自分からお願いすることにした。

「十四郎」

「ん?」

もっさもっさと野菜を食べる姿も可愛い。

「俺さ……十四郎が作ったチョコが食べたいなぁ」

そう言った途端十四郎が動きを止めた。口の中の野菜をゴクリと飲み込む。

田舎とはいえチョコぐらいはあるし、作ってくれと言ったら無邪気な顔で「チョコってどうやって作るんだ?」と聞いてくれるかと思ったのだが、この世の終わりみたいな絶望的な顔をしている。

「? 十四郎?」

「……どうしても食いたいのか?」

「え? う、うん」

「どうしても、絶対に?」

「……え、と……うん」

そんな顔で念を押されたらちょっと躊躇ってしまうが、“好きな人にチョコを貰う”に憧れていた銀時は頷いてみた。

「……分かった……ちょっと待ってろ……」

銀時の答えに寂しそうにそう言って、十四郎は立ち上がるとキッチンへ向かった。

残された銀時はすごく不安になってこっそりとキッチンを覗く。

十四郎は厳しい顔をしたままキッチンに立ち、何か決意したように右手に持った包丁を、自分の左腕に当てた。

「ええぇぇぇえええ!!?ちょ、ちょちょっ、十四郎!?何やってんのぉぉおお!?」

銀時が慌てて飛び出してくると、眉を八の字にして涙目の十四郎が、

「お、お前がチョコ食いてーって言ったんだろうがぁ」

なんて言い出すので銀時も混乱してきた。

「言ったけどっ、包丁で何すんのっ!?」

「チョコ作るんだよっ」

「……あ?」

「お前知らねーのか? チョコはな……本当は“血汚冷吐”って言って……う……牛の血を固めて作った恐ろしい菓子なんだぞっ!!」

「まじでか!!」

なんて、あまりの迫力に驚いてしまったが、チョコが“カカオ”から作られることを銀時は知っている。

だが十四郎はとても真剣で、この牛は可愛いけれど人の話を信じすぎてしまうのが欠点だ。

「…それ、誰に聞いた?」

「総悟」

やっぱり、と銀時は苦悩する。なんてとんでもない嘘を信じ込ませてくれてるんだ、とすぐに訂正してやろうかと思ったが、自分の血を使ってでも銀時にチョコを作ってくれようとした十四郎の姿に胸がきゅんとときめく。

騙されたんだとしょんぼりさせるより、うれしい嘘で騙してやったほうがいいのかもしれない。

「十四郎……それはな、大昔の作り方なんだぞ。今のチョコはカカオっていう豆で作れるんだ」

「ホントか?」

「うん。俺が教えてやるから、作ってくれるか?」

「おうっ!」

痛い思いをしなくていいと分かったからか、十四郎はとたんに嬉しそうな顔をして頷いた。

こうして銀時は“好きな人からチョコを貰う”という夢を、可愛い十四郎の手作りで美味しい……美味しい……。

「隠し味にマヨを入れたらいいんじゃねーかっ!?」

「ちょ、待っ……ああぁぁぁあああ!!」

……美味しいチョコで叶えることが出来たのでした。



 おわり



“血汚冷吐”は、うる星やつらという漫画のネタです。牛の血って……思い出して一人爆笑でした(笑)
虎牛でバレンタインデーネタなんてどうしようかと思ったのですが、良い話ができました(笑)
……でもうる星やつらを知ってる作家さんにはありがちなネタかもしれないです……はい。

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