虎牛設定(補完)
□その2
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#6
作成:2015/12/23
「じんぐっべーる、じんぐっべーる、すずがなる〜♪」
虎が二泊三日の遠出の依頼から戻ると、家の前で大量の薪を紐で縛りずるずる引っ張りながらそんな歌を口ずさむ牛がいました。
「……何やってんの、お前」
「あっ、銀時、おかえりっ」
ぱっと嬉しそうな顔をされて、たかが三日留守にしただけなのにそんなことで嬉しくなる自分に恥ずかしくなりながら、
「……ただいま。で?何、それ」
改めて問いかける。
「ソリを引く練習だ!」
「…ソリ?…」
「知ってるかっ?12月25日は“くりすます”ってお祭りがあって、前の晩に赤い服をきた“三太”っていうじいさんが子供にぷれぜんとをくれるらしいぞっ!」
この村に来るまであちこちをぷらぷらしていた銀時なので、そんなメジャーなイベントを知らないわけがない。
十四郎の言葉のふしぶしに変なニュアンスがあるような気がするが、とりあえず頷いた。
「それで?なんでお前がソリを引く練習してんだ?」
「うちの村には“三太”が来たことないなって聞いたら、“三太”は案内してくれる“となかい”ってやつが居ないと来れないんだって!だから俺は“となかい”になる!!」
えっへんと胸を張ってそう言った十四郎に、銀時は内心溜め息をつく。
「…それ、誰に聞いたんだ?」
「総悟だっ」
『やっぱり』
「“となかい”には立派な角とベルが付いてるから俺にしかできないって言われた!」
そう言われて唆されたらしい。
『確かに角もベルもあるけど……お前、牛じゃぁん』
だが十四郎はやる気満々のようで、銀時がうかない顔をしているのを“心配している”と思ったのか、にっと可愛く笑った。
「俺頑張って“三太”を案内して、お前にもぷれぜんと貰ってくるからなっ」
『ぐっ』
そんな顔をされたのでは“だまされる”なんて言えるはずがない。
「…うん。頑張れ」
「おう!」
応援されて気合を入れた十四郎が、またずるずるとソリを引く練習を始めると銀時はダッシュで総悟のところへ向かった。
「って、ことになっちゃってるけど?何してくれちゃってんのお前っ」
「安心してくだせぇ」
虎に睨まれてもまったく怯える様子もなく、総悟はそう言って紙袋を差し出した。
「ちゃんと用意はできてまさぁ」
「?」
受け取った袋に入っていたのは赤い服。
「……何コレ」
「あのマヌケ牛が待ってる“三太”のコスプレ衣装でさぁ」
「どうするのコレ」
「旦那にお・ま・か・せ。あ、ついでに配るプレゼントのほうもおまかせしますんで」
「はぁ!?何言って……」
怒鳴りつけてやろうかと思ったが、総悟はぴゅーっとすばやく逃げてしまった。
自分を巻き込むところまでが総悟の作戦だったらしいし、不満ではあるがどうやら今回はそれに乗っかってやるしかないようだ。
銀時は深い溜め息をついた。
24日の夜。
村の入り口でワクワクしながら“三太”が来るのを待っている十四郎を、木の陰からこっそり覗いていた銀時。
もう二時間も待っているが諦める様子はない。このまま放っておいたら一晩中待って、悲しそうな顔で帰ってきそうだ。
あの子の笑顔を見るのが銀時の幸せ。
銀時は覚悟を決め、ご丁寧に一緒に用意されていた白いもふもふのヒゲを付け、定番のコスチュームとは違う赤いだけの微妙な服を着て十四郎の前に姿を見せた。
「フォッフォッ、君がこの村のトナカイかな?」
我ながらクサイ演技だと思うし、見た目も失笑モノだ。
さすがに十四郎も騙せないかもしれないと思ったが、銀時を見た途端、十四郎はキラキラした笑顔を浮かべた。
「“三太”さんっ!? 俺、十四郎です!今日は立派に“とかない”を務めてみせますっ!」
騙せたようだ。
仕方ないのでこのまま演技を続けるしかない。
「フォッフォッ、よろしくのう」
「……あの……“三太”さん、ソリは?」
「ハッ!?」
どうやらソリは“三太”が持参する設定だったようだ。
「す、すまんのう、途中で壊れてしまってのう」
「…そうですか…」
準備していない銀時が慌てて言い訳すると、せっかく練習した十四郎は一瞬残念そうな顔をしたが、すぐに笑顔に戻る。
「じゃあ歩いて行きましょう!」
そう言って銀時の手を取ると村へ向かって歩き出した。
超可愛くてぎゅっとしたくなるが、この姿でそんなことをしたら“三太はエロジジイ”と記憶されそうなのでぐっと我慢するのだった。
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