虎牛設定(補完)
□その1
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#4 2015/07/16
木漏れ日が爽やかな森の中を、正反対の様子でトボトボと歩く動物が一匹。
「……ったく、何が“運命の人を見つけに旅に出なさい”だよ……んなヤツ、いねーっての……」
1年ほど前、そう言われて暮らしていた村を旅立ったのは、齢10歳の銀時。
子供が一人で1年も旅を続けていられた理由は、銀時が虎だったからだ。
銀髪の銀時に、最初は『こいつなんだ?』と寄ってきた動物たちが、黒黄の模様と牙と爪で虎だと気付き逃げていく。
「“お前(虎)を知らない者が、お前の運命の相手だよ”なんてそれっぽいこと言って追い出しただけじゃねーのかよ」
この1年、ずっとこの調子で寂しさMAXの銀時は、ブツブツとふて腐れながらひたすら歩き続ける。
そんなある日。
「こっちでぃ」
そう言って草むらの中から飛び出してきた鼠と犬に遭遇した銀時。
向こうも銀時を見つけて初めて見る顔に興味を示したが、銀時の正体に気付くのは早かった。
「! こいつ虎でぃ、逃げろっ!!」
「ええぇぇえ!?」
鼠が叫ぶと、二匹で反対側の草むらに飛び込んで、あっという間に森の奥まで走って行ってしまった。
ポツンと残された虎は更にしょんぼり。久し振りに会った動物なのに、やっぱり逃げられた。
「……せんせぃ……虎を知らない奴なんていねーよ……」
泣き出したいのを我慢するのも限界だ。
そう思ったとき、鼠たちが出てきた草むらから動物が一匹、ずぽっと頭を出し枝にひっかかりながら身体を出す。
まだ小さい角と白と黒の模様。牛だ。
牛は銀時をじっと見つめ首を傾げる。
「始めて見る顔だな。誰だ?」
「………銀時………」
「お前……」
銀時を上から下まで監察した牛が、また“虎だ”と気付いて逃げ出すんじゃないかと心配した銀時だったが、
「お前、牛だろ!」
“間違いない”という顔できっぱり言われて、目をぱちくりさせる。
「どこの子だ?隣町の牛美おばさんとこか?それとも牛男おじさん……」
「牛じゃねぇ!!」
思わず鋭くツッコんでしまったが、牛は全然納得していない。
「嘘だ!だって、白と黒のブチじゃねーかっ」
「縞模様だよっ!それに黄色も入ってんだろうがっ」
「……おしゃれな牛だな!」
「てめー、バカだろっ」
「ああ?お前も総悟みてーに俺をバカに……」
ギリギリと睨み合い、怒鳴り合いをしていたと思ったら、牛は何かを思い出したようにあたりをキョロキョロ見回した。
「お前、鼠と犬を見なかったか?」
ころっと話を変えた牛に、銀時は脱力しつつ、二匹が消えた草むらを指差す。
「あっち行った」
「そっか。……………………」
「…どうした?」
「………お前………」
急に真面目な顔をする牛に、今度こそ気付かれたかとドキッとしたがまた空振りに終わった。
「ここ、どこだ?」
さっきまでの威勢はどこに行ったのか、耳をぺたーんと寝せて眉をハの字にしている。
「……迷子かよ……」
「わ、悪いかぁ!!」
銀時はクンと匂いを嗅ぐ仕草をした。鼠と犬の匂いを探し、その残り香はずっと森の奥まで続いている。
不安そうにしている牛に手を差し出し、
「こっちだ」
そう言ってみたら、牛はぱーっと嬉しそうな顔をして躊躇いもなくその手を掴む。
村を出てから初めて触れる他人の感触に、銀時はドキドキしながら歩き出し、牛がそれに続いた。
「分かるのか?お前すげー牛だなっ」
「だから牛じゃねぇっての!!」
「じゃあなんだよ」
幼いながらにして銀時にはものすごい葛藤があった。
本当のことを言ったら逃げられる。ここは嘘をついて仲良くなったほうがいいんじゃないか。
でも、いつか虎だってバレる。それならいっそ……。
「……虎……だよ」
「虎?虎っていう種類の牛か?」
「だから牛じゃねーって!…あ?………お前、虎、知らねーのか?」
バカにされたと思ったのか、牛はむすーっとふて腐れたような顔をしたが、そこに怯えとか恐怖は見えない。
“お前(虎)を知らない者が、お前の運命の相手だよ”
「………まじでか………」
「な、なんだよっ!俺だってもっと勉強すればそんなの簡単なんだからなっ!」
文句を言いながらも繋いだ手を離さない牛に、銀時は胸が熱くなるのを感じた。
「……お前……名前、なんてーの?」
「十四郎だっ」
怒っていのにまたコロッと表情を変えて、牛は嬉しそうに笑った。
『せんせい。俺、運命の相手を見つけたよ。あたらねー予言なんかしやがって天然クソボケマヌケヤローなんて思ってゴメン』
心の中で反省したのに足元の石にけつまずいて、全身びたーんと地面に打ち付けてしまった。
悪口を言った天罰かもしれない。
「銀時っ、大丈夫かっ!? トロイ牛だなぁ」
「牛じゃねぇぇええ!!」
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