虎牛設定(補完)

□その1
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#2  2015/05/11


山に囲まれ神に守られたこの森には12種類の動物が暮らしている。

長を決め、掟を守り、店を営み、物を作り、働き、子供達は学校へ通う。そんな普通の生活。

森の中心に町を作って12種類……正確には11種類の動物が仲良く生活していた。


ある日、数日続いた嵐の後、北の山際で土砂崩れがあったようだと長に知らせが入る。

「あの辺りには虎が住んでたはずだね」

「はい、お登勢様」

「……様子を見に行ってくれるかい」

森の兵達が土砂崩れのあった場所へ到着すると、土砂の端に10歳ぐらいの子供が俯き座っていた。白い虎だった。

『白い…虎』

兵は不安げに顔を見合わせたが、長の命で来ているのだからと虎に声をかける。

「おい。大丈夫か?親はどうした?」

虎は顔を上げず、土砂のほうを指差した。



この森に一匹だけいた雄の虎は、10年以上前に森を出てつがいになる雌の虎を連れて戻ってきた。

その雌の虎は真っ白な身体をしていて、気味悪がる森の動物達から隠れるように北の山の麓に家を作り暮らしていたという。

その二匹から生まれた白い虎は名前を銀時と名乗った。

両親を土砂崩れで喪い一匹になってしまった虎に、長はこの町で暮らすようにと家を与え、学校へ行くように命じた。

父親の虎を知る町の大人達が白い虎である銀時を不気味がるせいか、虎を見たことがない子供たちも遠巻きにしている。

そして銀時のほうも、両親が一度も町へ連れてきたことがなかったため、いきなりたくさんの見知らぬ動物に囲まれて表情を無くしたままだ。

初めて学校へ連れてこられた日。

「今日からみんなの仲間に加わる虎の銀時君だ。みんな仲良くしてやれよ〜」

長に頼まれた猿で教師の服部は努めて明るく振舞ったが、両者の間に流れる微妙な空気を破れずにいた。

その時、

「遅刻、遅刻、遅刻〜〜っ」

そう言いながら駆けてくる足音があった。

「先生っ!遅刻してごめんなさいっ!!」

教室のドアを開け頭から突進してきたのは牛で、ゆえに前が見えていなかったのだ。

「あ」

「ぐふぅうっ!」

全員が見つめる中、避ける間もなく銀時は腹に牛の強烈な頭突きを食らい、気絶。

「え?あれ?あわばばばばっ」

慌てる牛。

他の生徒たちは、未知で恐怖だった虎が『牛に負けるヤツ』に見る目が変わっていた。

ある意味、おかげで場の雰囲気が和らいだと思った服部は、虎の看病を牛に任せることにする。


教室の外の木陰で休まされていた銀時が目を開けると、自分を心配そうに見下ろす顔を目にした。

「大丈夫か?ごめんな、俺のせいで…」

「……誰だ?……」

「牛の十四郎だ。お前、虎なんだってな。初めて見たよ」

「……牛……」

父親から聞かされた話を思い出す。牛は確か“牛乳”を作ってる動物。父親がごくまれに町に行った時に買ってきてくれた。

「おわびにコレやる。美味いぞ」

そう言って十四郎が差し出したのは、その“牛乳”だ。

「……お前が作った牛乳か?」

「違うわっ!!知り合いのおばちゃんが作った牛乳だ。これ貰ってくるのに遅刻しちゃってさ」

「……お前の飯じゃねーの?」

「大丈夫だ、俺はこの草も食えるから」

銀時に牛乳を渡し、十四郎は木の根元に生えている柔らかい草をもっさもっさと食べる。

そっちは不味そうなので、銀時は牛乳の方を飲んだ。美味しい牛乳だった。

父親がお土産に買ってきてくれた牛乳を母親と三匹で飲んだことを思い出し、銀時は悲しくなって泣き出してしまう。

「えっ、どうしたっ?そんなに美味いのか?また持ってきてやるから泣くなよっ」

勘違いした牛が慰めてくれるその声が心地よかった。



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