学園設定(補完)

□3Z−その5
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#66

作成:2018/04/06




冬休み前の屋上で、俺は銀八に告白した。

高校に入学したときからの担任で、最初は適当でいい加減な教師っぷりが苦手だったのに、屋上でこっそり煙草を吸っているのを見逃されてから印象が変わった。

自クラスの生徒だから見逃したとか、面倒くさいから見逃したのかと思ったら、

「高校生のくせに煙草吸っちゃいかん、とか偉そうに言える教師はそうはいねーしな」

そう言って、自分も常習犯だったことを教えてくれる。

大人のくせに、教師のくせに、手本にも見本にもならない適当さが、真面目で面白くないとよく言われる自分に憧れだった。

それがゆっくりじっくり時間をかけて、いつのまにか恋愛感情に変わっていく。

言うつもりなんてなかったのに、卒業を前にもうすぐ学校にも登校しなくなる、銀八に会えなくなる、そう思ったら言ってしまっていた。

銀八はきょとんとした顔をしてから、俺が本気で言っているのだと気付いたのだろう、困った顔で何か言おうとした。

断られる、と思った瞬間に、急に怖くなって、

「返事はいらねーから!」

そう言って屋上を飛び出してしまった。

何のために告白したのか。

このまま生徒と教師ですらなくなってしまうのがイヤだったはずなのに、と家に帰ってからモヤモヤしながらと考えた。

それに、なんの確証もない告白でもなかったのだ。

勘違いとか気のせいとかではなく、多少なりとも気に入られている、という自覚があった。

それが恋愛感情じゃなかったとしても、ずっとしつこく迫っていた猿飛のように無下には扱われないだろう、という自信があった。

衝動的に告白した、つもりでもその辺を冷静に考えて言ってしまったはずなのに。

怖くなって逃げ出してしまうなんて。

銀八ならちゃんと話を聞いてくれる。

もしかしたら、まだ生徒と教師である現状に困っただけかもしれない。

無理矢理ポジティブに考えて、明日もう一度話してみよう。

そう思ったのに、翌日、銀八は学校に来なかった。

「インフルエンザだとさ。受験生は面会謝絶、移されるなよ」

銀八と仲の良い(ように見える)教師の高杉に聞いたら、そう言われた。

ホッとしたような、気の抜けたような。

ともかく年内は登校してこない、というので俺の告白は宙ぶらりんのままになってしまった。

メールか電話なら良いかとも思ったのだが、他のヤツラの話では、メールも返ってこないし電話にも出ないらしく、躊躇したあとそれも止めた。

具合が悪いのに、自分のことで考え込ませたくなかった。

銀八のいない、高校生活最後のクリスマス、お正月。

受験生ではあるけれど、勉強もしないといけないけれど、楽しみにしていたのにとクラスメイト全員が残念そうだった。

それでも冬休み明けに銀八をがっかりさせまいと、全員で羽目をはずさず大人しく年末年始を過ごした。

が、休みが明けても銀八は来なかった。

クラスメイトがすぐさま高杉に聞きに行ったら、

「あー、なんか色々拗らせてるみてーでな、登校はまだ無理かもなー」

そんな曖昧なことを言われたそうだ。

大して心配もしてなさそうだった、というので本当に大したことないのかもしれないが、半月も経っているのに直らない病気とは?

心配しながらもきちんと勉強をこなして銀八の登校を待っていたのに、月末近くになってもその兆しがない。

何度も聞きにくる俺たちが面倒くさくなったのか、高杉も相手にしてくれなくなった。

2月になったら3年生は登校しなくなる。

もうこのまま卒業式まで、いや、卒業式にすら会えないで終わってしまうのか。

そう思ったとき、"それが理由"なのかと気付いた。

俺に会いたくなくて、俺の告白が迷惑で面倒くさくて、逃げられてしまったのかもしれない。

それはあまりにも身勝手じゃないか?

告白した俺のせいだけど、だったら俺にはっきり言えばいい。

心配して待っているみんなのことを思ったらだんだん腹が立ってきて、意地でも会ってやろう、という気持ちになった。


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