原作設定(補完)
□その3
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♯29
作成:2015/04/22
1 / 2布団の中で土方をぎゅーっと抱き締めたまま問いかける。
「来週の金曜日会える?」
「仕事だから無理だな」
「そか、わかった」
前もっての約束は無意味だ、そう分かってるから返事も、確認も簡素だった。
数日後、見廻り中の土方に新八が話しかけてきた。
「こんにちは、土方さん」
「おう。一人か?珍しいな」
「土方さんこそ、一人なんて珍しいですね」
「出てきたときは二人だったんだけどな」
ちょっと目を離した隙に逃げた憎たらしい顔を思い出して土方は顔をしかめる。
話すことがなければ「じゃあ」と言って立ち去ればいいのだが、今日は何か言いたげにしている新八。
「どうした?」
「あの…金曜日…忙しいですか?何時でもいいんですけど」
銀時もそんなこと言ってたなと思い出し杞憂したが、
「…何かあるのか?」
「…えっと…銀さんの誕生日なんです」
そんなことか、と土方は笑って切り返した。
「もう誕生日を祝うような年でもないだろ」
「でも銀さんがっかりして元気ないんですよ」
「あいつが?普通だったぞ」
あの後も、昨日団子屋でお茶をしたときも、いつも通りだった。
「パチンコで負けたかなんかじゃねーのか?」
「…じゃあ、来て下さい!」
土方が全く意に介さないので、新八は半ば強引に万事屋まで連れて行った。
「銀さん、ただいま〜」
玄関を開けそう言ったが、奥からは迎える言葉ではなく何かの呪文を唱えるような坦々とした声が聞こえてきた。
「……土方が12人…土方が13人……」
「!!?」
土方を置いて新八が中へ駆け込むと、マヨネーズをテーブルに並べている銀時がいた。マヨネーズにはマジックで“土方”と書いてある。
「銀さんっ……あ!またそんなにマヨネーズ買ってきて!そんなに並べても土方さんは召喚できないですよ!!」
「分かってるよ………だけど、これ全部飲み干したら土方が現れるような気がすんだよ」
薄く笑みを浮かべた銀時の目は本気だった。
「それ頭パーンってなってから見える幻覚ですよっ」
「幻覚でもいい」
ソファーに寄りかかって拗ねるポーズを取った大の大人ほど面倒くさいもんはないな、と思いながらも頑張って慰める新八に、
「ほら元気出してくださいよ。金曜は僕らでお祝いしてあげますから」
「けっ、お前ら100人合わせても土方一人に満たねーよ」
「ヒドッ、酷い大人だよ、こいつっ!」
大人げない言葉で吐き捨てる銀時に、新八は呆れつつ言ってやる。
「そこまでヘコむなら土方さんにちゃんとお願いしたらいいのに」
「やだ」
「話したら分かってくれますよ、きっと」
さっき鼻で笑った自分への嫌みだろうか、と玄関にいる土方は思った。
「いいんだよ、仕事の邪魔はしねーの」
「でも…」
「あいつにとって仕事…真選組は一番大切なもんなんだよ。大切なもんに一生懸命だから幸せでいられる。俺はそれでいいんですぅ」
そう分かってるのに拗ねてるんだからどうしようもない。
新八が溜め息をついたとき、玄関を静かに閉める音が聞こえた。
土方のことを忘れてた、と覗いてみたが姿はない。分かってくれただろうか。
金曜日、甘味と酒ばかりが集まったパーティの大騒ぎ中、電話が鳴り新八が出る。
「はい、万事屋銀ちゃん………あ」
受話器から聞こえたのが土方の声で、新八はちょっと嬉しくなった。
「仕事が9時ごろには終わりそうなんだ。そっちいつまでやってる?」
「9時までには終わらせます!!」
「………頼む」
合流するつもりで確認したのだが、土方に気を使ってくれたのか、銀時へのプレゼントのつもりなのか、新八がそう言うので甘えることにした。
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