原作設定(補完)

□その2
7ページ/11ページ

♯16

作成:2015/04/15 修正:2016/03/28




沖田が仕事をサボって団子を食べている。

そんないつもの風景を見て、土方は凍りついたように動けなくなっていた。

沖田の隣には銀時。それもまぁ稀にあることだが、今日は様子がおかしかった。

「旦那、はい、あ〜んしてくだせぇ」

「俺はいいから、総一郎くん食べなよ」

「総悟です。俺は旦那に食べて欲しいんでさぁ」

「じゃあ、俺も八神総一郎くんに食べさせてあげるよ」

「総悟です。じゃあ、一緒に、はい、あ〜ん」

「あ〜ん」



『な、なんだそりゃぁぁああ!』

周りの奇異な視線もガン無視でバカップルぶりを発揮している二人。

沖田が仕事中(隊服)だったなら真選組の外聞が悪すぎると蹴散らしに乗り込むところだが、あいにくの非番(私服)だ。

土方はくるりと背中をむけてその場を立ち去る。胸に沸き上がるイライラの理由を自覚していたからだ。




数日後には、屯所中に二人のことが知れ渡っていた。

公園、茶店、ファミレス、さらには屯所。二人で仲良く歩いたり、おやつ食ったり、飯を食ったりしているらしい。

先週の花見で一緒にいるのを見た、というのが一番古い目撃情報だ。

二人が本気なのか確かめる必要がある。真選組副長としても、土方十四郎としても。




万事屋のチャイムを鳴らすと気だるそうな顔をした銀時が出てきて、一瞬驚いたような顔をしたが、すぐにいつもの調子で口を開く。

「何の御用ですか、副長さん」

「…話がある」

「……ふ〜ん。どうぞ」

家の中は静かで他に誰もいないようだったから、話が話だけに丁度よかった。

「お茶汲み係がいないからなんのもてなしもできないんだけど、何か飲む?」

「…いらねー」

「そ」

自分の椅子に深く腰かける銀時をずっと目で追いかけていたが、一度も土方を見なかった。

もとから仲良くもない、むしろ悪いと言ってもいい。会えば睨み合って、憎まれ口をきいて、関わらないようにしてきた。

なのになぜ、好きだ、なんて思ってしまったんだろう。

「…お前と…総悟のことが屯所で噂になってる」

部屋の入り口に立ったままそう言った土方に、銀時は小さく笑った。

「…その真偽を副長さん自らわざわざ確認に来られたんですか?大変ですねー」

「本当なのか?」

「そう見えたんならそうかもね」

「本気なのか?」

「…そう見えるならそうだったりするかもね」

曖昧な答えだが銀時は否定しなかった。

伝えられないなら諦めるしかないのに、はっきりさせるのが怖くて逃げ続けた結果がこれだ。

相手が沖田では二度と会わずに済ますことはできない。二人を見るたびに辛くても耐えるしかない。

そう思ったら、余計な一言が口をついてしまった。

「……本気ならいい………諦めるから」

後ろの言葉は聞こえるか聞こえないかぐらいの小声だった。

だが銀時は伏せていた顔をぱっと上げて、初めて土方の方を見る。

「………沖田くんを?」

聞こえたなら意味が分かるはずだと思っていたのに、銀時からの問いかけは真逆のもので、ついツッこんでしまった。

「誰があんなドSっ!」

「…じゃあ、俺?」

立ち上がり土方のところまで歩いてくる銀時に、答えることも顔を上げることもできないでいたら、がっと両手で頭を捕まれて上を向かされた。

「お前っ、俺のこと好きなのかっ!?」

目の前にあった銀時の顔は驚いた表情で紅潮し、それに釣られた土方の顔も質問の内容と合間って真っ赤に染まる。

それを答えと受け取ったのか、銀時はへなへなと手を土方の肩に乗せ、

「早く言えよ〜、なんのために沖田くんに弄ばれてたと思ってんですかコノヤロー」

などと言い出す。

動揺していた土方だったが、文頭からの一連の出来事に“よからぬきっかけ”が存在したことを察し、いつもの副長に戻った。

「何しでかしたんだてめー」

頭を掻きながら銀時は白状する。

「……この前の花見で、今年もお前と飲み比べになっただろ。あのあと…酔って寝ちゃったお前があんまり可愛くてムラムラッとしてきちゃって…」

可愛いとかムラムラとか意味深なワードはとりあえず置いといて、結論を求める。

「…何をした…」

「…ちゅう」




「あ〜らら、見ぃ〜ちゃった」

「な、なにをかな?」

「土方さんは見かけ通りカッチカチの堅物ですからね〜。バレたら殺されやすね」

「沖田くぅぅぅんん!!」




「黙ってて欲しかったら言うこときけ、何か問い詰められても肯定も否定もするなって言われました」

いつの間にか土方の前に正座させられた銀時が、いっさいがっさい白状させられた気恥ずかしさでしゅんとしてる。

それを見ながら土方は考えた。

沖田がなぜこんなことをしたかと言えば、土方の気持ちに気付いていたに違いない。

お互い好きなくせに向き合えない、いい年した男二人をからかっただけに違いないのだ。

いますぐ屯所に帰って殴り付けたくなる衝動は、目の前のもふもふした頭を見たら落ち着いた。

悪意しかないにしろせっかく作ってくれた切っ掛けだ。何も成果を出さないで終わらせたら、それこそ奴に笑われるだけだろう。

銀時の前にぺたんと座り、さっきスルーした“可愛い“と”ムラムラ“をはっきりさせてから、自分の気持ちを伝えてやろうと思う土方だった。



おわり



なんだかんだでキューピッドな沖田。
沖田は口調が定まらないんで苦手なんですが、
トラブルの元凶として必須ですよね。




[目次に戻る]
次へ
前へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ