その他(補完)

□妖怪設定
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#九尾狐×烏天狗

作成:2017/04/06




人里から離れた深い森の中。

人間は近寄らないこの森には、多数の動物達と、もう一つの種族が住み暮らしていた。

風もない静かな陽気だったのに、一陣の風が通り過ぎたと同時に木の枝が重みで軋む。

大きな2本の鎌を背負った“かまいたち”がどかっと座っていた。

人間には“妖怪”と呼称される彼らが、この森では割とのんびりお気楽に生活しているのだった。

怖がれることもあるけれど、妖怪のほうは自分たちの領域を故意に侵さなければ人間に係わろうとは思っていない。

もちろん両者が揉めている土地もあるのだが、このあたりは平和なものだった。

かまいたちは人里から拝借してきた大福を懐から取り出す。

甘味屋の店先から盗ってきたものだったが、人里に下りてそんなことをする妖怪は多くなかったため、人間のほうも目をつぶっていてくれる。

鼻歌まじりにそれを食べようとしたとき、足元のほうで鳴き声が聞えてきた。

「……くぅん……くぅ〜ん……」

獣道を小さい声で鳴きながら歩いているのは子狐だった。

元気のない足取りでふらふらと歩いているなと、上から見ていたかまいたちの手から、大福がすべり落ちる。

「あ」

と思った瞬間、元気のないはずの子狐がものすごい速さで大福に駆け寄ってきた。

追いかけて地面に降りたかまいたちは、頬をぱんぱんに膨らました狐の首根っこを摘み上げる。

「俺の大福を盗み食いするとはふてー野郎でぃ」

大福を一口で口に含んだらしい子狐はそう凄まれても吐き出す気はないらしく、ぷらーんと体をぶら下げられながらモグモグと口を動かしていた。

もちろん吐き出したとしてもそれを改めて食べる気にはなれない。
かまいたちはにやりと笑って、


「盗人は屯所に連行して置きおきしてやらぁ」

自分のことは棚に上げて、地面を蹴ると風に乗って姿を消した。




このあたりを統べる大妖怪の天狗に命じられ、烏天狗が妖怪たちの治安を守っていた。

森の一角に根城を作り、揉め事があれば出動して取りまとめる。

その敷地内にかまいたちが降り立つと、すぐさま頭に拳骨が飛んでくる。

「総悟っ!また当番をさぼりやがったな!」

待ち構えていたように叱責されて、総悟と呼ばれたかまいたちは不満そうに反論した。

「土方さ〜ん、サボってませんぜぃ。迷子の狐を保護してたんでさぁ」

良い言い訳の材料になったと、総悟は首根っこを掴んだままの子狐を、土方と呼ばれた烏天狗の目の前に差し出す。

大福をなんとか飲み込んで腹を満たされた子狐は、険しい顔の烏天狗に睨まれて尻尾を丸めた。

「狐?どっから拾ってきた」

「道を歩いてやした。腹を空かせてたし、迷子なんじゃねーですかぃ」

「腹が減ってるのか?」

「あ、今は大丈夫でさぁ。俺がぱちってきた大福を丸呑み……あ……」

「てめぇぇ、やっぱりサボって人里に降り……」

口を滑らせてしまった総悟は、子狐を掴んでいた手を土方の目の前でパッと離し、急なことにわたわたしている間に逃げようと思ったのだが、

「そいつ頼みまさぁ」

「ちょっ…わっ………うっ……」

両手で子狐を受け止めた土方が、何故かそのまま子狐を地面に降り落してしまったのを見て足を止める。

まだ小さくて運動能力が足りないのか、地面で背中を強打した子狐を拾い上げて嫌味っぽく言ってやった。

「何やってんでぃ、こんな小さいのいじめて」

「いじめてねぇ……つーか……なんか、そいつ気持ち悪い……」

いじめたわけでも、受け取り損ねたわけでもない。

受け止めた瞬間に、土方は全身にゾクリと寒気がしてわざと子狐を手放したのだ。



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