追加妄想
□原作設定ー#534
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#534
作成:2020/03/19
その夜、土方はかぶき町をぷらぷらと歩いていた。
忙しい中に少し時間が空いたので、全然会えていない銀時に酒でも驕ろうかとやってきたのだが、生憎留守だった。
応対してくれた神楽に、
「夜のかぶき町は危ないから寄り道しないですぐに帰るアル。じゃないとヒドイ目に合うアルヨ」
と言われたのはいささか気になるが、言われなくてもそのつもりだ。
この町は騒がしすぎて一人で飲み食いしたい場所ではない。
今からでは屯所に戻っても食堂は開いてないだろうから、コンビニに寄って適当に買って帰ろう。
そうぼんやり考えていたせいで、腕をぐいっと掴まれるまで人の接近に気付かなかった。
相手が土方の命を狙う輩だったなら、"ぼんやりしてた"では済まない事態になるところだったが、幸いにも"知人"だった。
「やだぁ、土方さーん。遅刻ですよぉ」
高い声ではしゃぐようにそう言いながら、強い力で土方の腕に腕を絡めてくる。
ぴたりと寄り添われて化粧と香水の香りがしたけれど、その顔は確かに土方が"今日会おうとしていた者"の顔だった。
「!? よろ……」
「パー子と同伴出勤してくれるなんて嬉しぃぃ」
女の着物を着て付け毛をつけた"パー子"は、わざとらしく明るく大きな声を出す。
どうやらこちらに近づいてきた男に聞かせるためらしい。
良い着物を着た若い男は、パー子を腕にぶら下げている土方を睨みつけるが、
「お仕事お疲れ様ですぅ。真選組は江戸を守る大変なお仕事ですもんねっ、もっとパー子に会いに来て欲しいけど我慢するよ」
なんて説明くさいパー子のセリフに、男は怯んで足を止めた。
"真選組"と"土方"と聞いて怯まない男は江戸には居ない。
土方は内心で大きく溜め息をついてから、自分の腕を掴むパー子の手にそっと手を乗せる。
「いつも我慢させてすまねーな。今日はゆっくりして行けるからよ」
「…………きゃ、きゃあ、パー子、嬉しぃぃぃ」
事態を察して土方が合わせてくれただけなのに、驚いて反応が遅れたパー子だったけれど、オーバーに喜んでぴたっと体を寄せた。
それから2人でパー子の職場に向かって歩き出すが、しばらく背中に視線を感じたけれど追ってはこなかった。
念の為に小声で話しかける。
「わ、悪い」
「……てめーはまだそんなバイトしてるのか……」
今度は本当に深い溜め息をついて呆れた声を出す土方に、パー子はしゅんと大人しくなってしまった。
つづく..