追加妄想
□原作設定ー#532
1ページ/7ページ
#532
作成:2020/03/10
「おい」
それが自分に向けての呼びかけだと感じた銀時が振り返ると、呆れた顔をした私服の土方が立っていた。
いつも喧嘩ばかりしている相手だったので、銀時もまたかといやそうな顔をする。
「なんですか」
「店のヤツラが困ってるぞ」
言われて正面を向くと、ガラスの向こうでコンビニの店員が怯えた目でこちらを見ていた。
大の男がべったりと両手と額をガラスにひっつけて中を覗いているのだから、それも無理もない。
ようやく事態を察して銀時はガラスから離れた。
「強盗でもする気か?」
「違いますぅぅぅぅ。今日は寒いから中華まんでも食いてーなぁって思ってただけですぅぅぅ」
「買えよ」
「…………か、金がない」
「…………はぁ」
誤解を解いたのにやっぱり呆れられた。
ちくしょうと思って立ち去ろうとした銀時に、思いもよらぬ声がかけれる。
「驕ってやる」
「……え?」
聞き返している間に土方はもう店内に入っていってしまい、銀時は戸惑いながら後を追う。
不審人物が中に入ってきたことで店内がちょっとざわめくが、先に入ってきた土方が中華まんのケースの前に立ち、
「おい、どれがいいんだ」
「……まじで? いいの?」
「おう」
というやりとりをしてくれたので、大丈夫そうだとホッと息をついた。
喧嘩ばかりの土方だったけれど、気まぐれで驕る気になってくれたのなら遠慮することもない。
「えっと、じゃあ、あんまんとチョコまんとぉ……」
「何個買う気だ。1個だ、1個」
「えええっ!? 高給取りなのに!? ケチくさ……」
「いらねーんだな」
「ウソです。ごめんなさい…………んーーーーーー……だったらこのチョコまんで」
ケースの中で一番高い、新発売で期間限定の高級チョコ使用のチョコまんを選ぶあたりが銀時らしい。
「それと、エビマヨまん一つ」
土方も自分の分を頼んで金を払い、店員がひとつづつ紙袋に包みレジ袋に入れたのを受け取ると店を出た。
銀時としては、その場で受け取って「ゴチ」と軽く礼を言いその場を去りたかったのだが、一緒の袋に入れられてしまったので仕方なく土方の音を追う。
すぐ近くに公園があり、土方はそこに入ると空いているベンチに座ってからレジ袋の中華まんを取り出す。
「ん」
銀時の分を差し出され、その仕草は"隣に座れ"と言っているように見えた。
公園に入ったときは、真選組の副長さんは立ち食いなんて下品な真似はできないのね、なんて思ったのだが、まさか自分もそれに付き合わされるとは。
なんで一緒に食わなきゃいけねーの、と言いたいところだけれど、せっかく手に入れたチョコまんは食べたい。
さっさと食って帰ろう、と思いながら隣に座り、チョコまんを受け取った。
さほど大きくない中華まんだから一気に食えてしまいそうだったのだが、なにせ高級チョコ使用で万事屋の財政状況では買えない代物なので、
『う、うめぇぇぇぇぇ』
と味わっていたらゆっくりになってしまった。
そんな中、隣で中華まんを持ったまま動かずにいた土方が、ぽつりと呟く。
「……俺……てめーが好きだ……」
「ふーん………………は?」
一旦聞き流したものの、とんでもないことを言われたことに気付いてマヌケな声で問い返す。
土方は顔を真っ赤にして、
「返事……くれな」
そう言うと中華まんを手に持ったままぴゅーっと姿を消してしまった。
残された銀時は「は?」の顔のまま、とりあえず残っているチョコまんを口に放り込み、食べ終わると、
「…………帰るか」
と呟いて立ち上がった。
つづく..