虎牛設定(補完)
□その4
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#30
作成:2019/10/19
誕生日の朝、虎は玄関から庭を見つめて固まっていた。
というか、今日が誕生日だということはついさっきまで忘れていたのだが、目の前の"贈り物"を見て思い出した。
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「銀時、誕生日の贈り物は何が良い?」
「…………それ、今答えなきゃダメなの? まだ6月で、おめーの誕生日祝いなんですけど」
「次の高杉の誕生日に集まれるか分からないだろう。あいつは今回だって来なかったしな。聞いておいたほうが安心だ」
「それに"情報は早く"が商人の鉄則じゃあ」
「商人なのはおめーだけだろうが…………そう言われてもなぁ……今欲しいもんが、当日欲しいもんか分からないだろうが」
「……割と現実的なんだな、貴様」
「もうちと夢のあるもんがなかか?」
「夢のあるもんで、俺がずっと欲しいと思うもん………………あ! あったわ、そういうの」
「そうか。何だ?」
「牛乳」
「…………牛の乳のことか?」
「そう。使いみちがいろいろあるのに、俺んちの近隣では虎だって警戒されて買えねーんだよ」
「肉も食わんし、菓子を手作りするような無害な虎なのにのう」
「だから、"牛乳がずっと出る"魔法の壷とか、ない?」
「……酒なら聞いたことがあるが……」
「あっはっはっは、そういう不思議道具はわしにまかせぃ! 必ず見つけ出してやるきに!」
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数ヶ月前に友人とそんなことを話した。
その"牛乳がずっと出る"魔法の壷……の代わりが、コレだろう。
庭には、赤いリボンで体をグルグル巻きにして身動きできなくされた"子牛"が、小さく振るえながら泣きそうな顔でそこに居た。
『いや、俺が言ったのは"魔法の壷"的なものなんですけどぉ!? 無かったのか!? 見つからなかったから直、牛を送ってきたのか、あいつら!!』
誕生日を忘れていたのだから、当然牛乳の話も忘れていた。
けれど目の前の子牛を見て絶望的な気持ちになる。
『子牛じゃ牛乳が飲めるようになるまで何年もかかるだろうが! せめて大人の牛を寄越せ!!』
割りと前向きに考えている虎だったが、本当の絶望は別にあった。
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