虎牛設定(補完)

□その3
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#18

作成:2017/08/23




「総悟のヤロー、また俺を騙しやがって。あのクソネズミっ」

街道をイライラした様子で文句を言いながら一匹の牛が歩いていた。

両手にはがっちりした鞄を持っていたが、片方は重く、片方は軽い。

ガチャガチャと音を立てる鞄には“新鮮組牛乳”と書かれていて、それを山の麓に住む老夫婦の所へ運んできたのは牛の十四郎。

依頼を受けて牛乳を届けたのだが、頼んだのは持っていた本数の半分だけだったらしく、残りを持って帰る羽目になっていた。

配達を連絡してきたネズミの総悟は十四郎を困らせて喜ぶ性質を持っていて、何度もこんな迷惑を被らされている。

早く帰って文句を言ってやろうと歩いていたら、遠くから泣き声が聞えてきて足を止めた。

辺りを見回すが姿はなく、子連れの誰かが近くに居るのかもしれないが気になってしまい、声を辿って道を反れて進む。

だんだん近付いてくる泣き声の主は、黄色の毛並みに黒いシマ模様で、頭は銀髪の小さい子供だった。

大粒の涙を流してわあわあと泣いている子供は、十四郎の姿を見つけるとおぼつかない足取りで近付いてくる。

ようやく歩けるようになった、ぐらいの足取りに、親が近くに居るんじゃないかと声をかけてみるが、姿を見せない。

「おい、親はどうした?……って言っても分からないか……」

自分にしっかりとしがみ付いてただただ泣くだけの、見慣れない容姿の子供に十四郎は困惑する。

このまま放置するわけにもいかず、銀色の髪をくしゃくしゃと撫で涙でぐちゃぐちゃの顔を拭いてやったら、子供はその手を掴んで指の先を口にくわえるとチューチューと吸い始めた。

「お、おいっ」

どうやらお乳を吸っているつもりのようだが、もちろん何の味もしないのに一生懸命吸い続ける子供に、腹が減っているようだと十四郎は察した。

幸い十四郎は余分だった牛乳を持っている。

鞄から牛乳の入った瓶を取り出すと栓を開けて子供の鼻先に差し出してみた。

匂いを嗅いだあと子供は十四郎の指から口を離し、瓶から出て来る牛乳をゴクゴクと飲み始める。

ホッとしながら十四郎はこぼさないように瓶を支えてやり、よほどおなかが空いていたのだろう、小さい身体で1リットルの牛乳をほとんど飲み干すのを見届けてしまった。

満足そうな顔をした子供は、十四郎をじっと見つめたあと、辺りをキョロキョロと見回す。

親を探しているんじゃないかと、居ないと分かったらまた泣き出すんじゃないかと、十四郎はビクビクしたのだが、子供はまた十四郎の服をしっかりと掴んだ。

泣き出しはしないが十四郎を掴む手に“一人になりたくない”という切実な思いが感じられる。

「……えっと……困ったな……」

困惑しながらもしばらくその場で親が戻るのを待ってみたのだが、街道から外れているせいか誰の姿もなく、十四郎は仕方なく子供を抱き上げると街道まで戻ってみた。

しかし子供に似た容姿の大人どころか他の動物の姿もなく、子供のことを尋ねることもできない。

配達が終わったのだから帰らなければならないのに子供を放置していくわけにもいかず、どうしようかと深い溜め息をついた十四郎は、抱いていた子供がすーすーと寝息をたているのに気づいた。

おなかがいっぱいになったら眠くなってしまったのだろう。

こんな姿を見せられたらますます置いてけぼりにするわけにはいかない。

結局夕方までその場で親が戻ってくるのを待ってみたのだが、見つかることがないまま十四郎は子供を連れて帰ることにした。



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