虎牛設定(補完)
□その2
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#5
作成:2015/10/11
「ふわぁぁぁ……っ……」
虎が大きく背伸びをしてベッドから起きたとき陽はだいぶ高く、いつもなら牛が起こしにくるはずなのにと思っているとテーブルに一枚の置手紙。
“出かけてくる。 十四郎”
一緒に置かれていた牛乳を飲みながら、小さく首を傾げた。十四郎が銀時に何も言わずに一人で行動するのは珍しいからだ。
しかし十四郎が居ないという事実に気付いた銀時は目を輝かせ、台所で朝食の準備を始める。
パンをたっぷりはちみつに浸し、いちごにどっさり砂糖と牛乳をかけて満面の笑顔。
十四郎のマヨネーズを注意したら、「銀時だって糖分取りすぎだろっ!」と言い返されてしまったため、銀時も糖分の節制を余儀なくされていた。
十四郎が留守の今がチャンスと甘い朝食を用意し、一口口に入れ、
「うめ〜〜〜〜っ」
とっても幸せな気分になった。
……のも、つかの間。食べ続けるうちに、「銀時!砂糖かけすぎだぞっ!」と怒る十四郎の声がないのが寂しくなってきた。
もそもそと一人の朝食を食べる。
虎が牛とここで一緒に暮らすようになってからまだ1年ほどしか経っていない。
それまでずっと一人で生きてきた銀時は、この近くの森で行き倒れていたところを十四郎に助けられた。
『……そういや、今頃だったなぁ……』
冬になると食料も少なくなるため暖かい地方へ行こうと思っている途中で、何も食べ物を見つけることができず、もう死ぬかもと思っていたところに牛が現れた。
虎のくせに肉が嫌いな銀時だったが、あの瞬間だけは肉を食ってみようかとわりと本気で考えてしまった。
虎の姿を見て逃げる牛を追いかけてその喉笛に噛み付き……と思っていたら、牛は駆け寄ってきて持っていた牛乳とパンを出してくれる。
「このへんは寒くなるのが早いから食べ物が無くなるんだ」
そう言って、ガツガツとパンを食べる銀時をじっと見つめた後、
「暖かくなるまで俺の家に居ればいいぞっ」
なんてことを言い出したので、虎である銀時のほうが逆に牛を心配してしまう。
「俺……虎なんだけど……」
「……虎?……」
首を傾げてしばらく考えた後、Σ(´□`;)←こんな顔をしたものだから銀時は笑い出してしまった。
ずっと一人で暮らしてきたから本気で笑ったのはこれが初めてだったかもしれない。
それを見て警戒が解けた牛も笑うから、結局銀時は牛の家で世話になることにした。一瞬肉を食いたくなったことはもちろん内緒で。
冬を越えるだけのはずだったのに今だここに居るのは、十四郎と仲の良い犬と兎に話を聞いたから。
「お母さんが亡くなったばかりで寂しかったんだと思います」
夏に母牛を亡くし、それから一人で暮らしていた十四郎。
だんだん暖かくなって春が近づいてくると十四郎は何か言いたそうに寂しそうにしていたが、
「……あー……ここは美味いもん多いから、もうしらばらく居るかな……」
先にそう言い出した銀時に、泣き出しそうな顔で笑った。だから出て行けなくなってしまい、また秋になる。
寂しさに同調して一緒に居て、置いていくのが可哀想で残り、そして十四郎が可愛くて出て行きたくなくなっている今。
そんな自分にちょっと恥ずかしくなった銀時は、顔を赤くしながら残りの朝食を平らげた。
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