虎牛設定(補完)
□その1
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♯1 2015/05/01
「誕生日?なんだそれ」
日当たりの良い原っぱで寝転がった銀時が聞く。
「知らねーんですかぃ、旦那」
「生まれた日、ですよ。みんなでお祝いするんです」
総悟はからかい、新八が教えてくれる。
そうか、生まれた日をみんなで祝ったりするんだ。
乳離れをしても肉を食べられず狩りもできず、銀時は幼い頃に群れを追い出された。
旅の途中の竜に教えられ、この森に来てから約半年。ようやく集団で生活する知識を得てきたのだ。
「十四郎の…誕生日、なのか?“お祝い”って何するんだ?」
「みんなでおいしいもの食べたり、あとはプレゼント上げたり」
「プレゼント…」
「好きなものとか、喜んでくれそうなことをしてあげるんです」
可愛い牛の十四郎。あの子がいたからこの森で暮らしていられる。虎の銀時を怖がらずに笑うから、森の奴らも受け入れてくれた。
十四郎が喜ぶプレゼントをあげたい。
十四郎の好きなもの。柔らかくて美味しい草、マヨネーズ、日向ぼっこ。
どれも毎日やっているもので、特別な感じがしない。
十四郎の誕生日まであと4日。
ずっと考えているがさっぱり思い浮かばないまま帰り道を歩いていると、道端にフードを被った誰かが座っていた。
「おまえ、悩み事があるだろう」
しゃがれた老人のような男の声で、怪しむ銀時に続けて言う。
「…むう……大切な人への贈り物で悩んでおるな」
「! 分かるのか!?」
「わしは占い師じゃ。第一森人のお主に、特別にタダで教えてやろう」
そう言って手に持った複数の棒をカシャカシャ鳴らすので、銀時が食い入るように見つめる。
「…むむっ……この森を北へ真っ直ぐ2日歩いた先にある洞窟に、伝説のでり〜しゃすマヨネーズが隠されておる!」
「伝説のでり〜しゃすマヨネーズ!」
ものすごく特別感のある響きに目を輝かせ、
「ありがとうっ、じいさん!!」
そう言って走り出した銀時を見送り、占い師は立ち上がって呟いた。
「………じいさんじゃないでござる」
“用事で森の外まで行って来る。3日で戻る 銀時”
そう書いた紙を置いて銀時は家を出た。歩いて往復4日なら、走れば3日で戻ってこれるだろう。
ずっと一人で暮らしていた銀時には、一人で遠出することも知らない場所へ行くことも怖いことではなかった。
2日後の昼にはそれらしい洞窟へと到着。
真っ暗な洞窟をどんどん進んで行く間、なんとなく懐かしい匂いがしたような気がした。
暗闇の先に明かりが見え、拓けたそこは天井が無く、滝が上から地下へと続き、大きな岩がいくつもあって奥が見えにくい。
先への道を探そうと足を進めたとき、何者かの気配を感じた。
「誰だっ!」
「はははははっ、久し振りだな、銀時っ!」
一番大きな岩の上に一匹の猪が偉そうに立ちはだかっている。
「…………誰?」
「俺だっ!!」
「?」
「ぐぬぬぬっ」
「晋助様っ、頑張るっス!!」
「……晋助?」
その名前には聞き覚えがあった。
虎の群れを追い出されてから最初の冬、うまそうなサツマイモを持った子猪に会った。
猪は虎を見て『食われる!』と思ってビビリまくっていたので食ってやった。芋を。
虎が自分を食べるつもりがないと悟ると急に強気になった生意気な猪の名前が晋助だったような気がする。
集団生活が合わないという理由で群れを飛び出したらしい晋助は、銀時の後を追いかけて来るようになったので、その後しばらく一緒に旅をしていた。
ある日、食料を探してくると言って出かけたまま数日待っても戻ってこなかったので、そのまま放って旅を続けたのだ。
「……生きてたのか」
「生きてたのか、じゃねぇぇ!!迷子になってようやく戻ってきてみりゃもういねーしっ!探せやぁぁ!!」
「面倒だったし」
「て、てめぇぇ!!」
晋助は怒っているようだが、あの頃の銀時は仲間意識なんてものは持ち合わせていなかったので仕方ない。
今なら少し分かるので謝ったほうがいいかと思ったが、それより大事なことに気が付いた。
「………マヨネーズは?」
「ふっふっふっ。そんなものあるわけねーだろっ!」
そう偉そうに言った晋助の隣に、占い師と名乗ったフードの男と、若い女が出てきた。フードの下は若い犬で、女のほうは兎だった。
「お前をここに呼び出すための……罠……」
晋助が説明し終わる前に、銀時は近場にあった両手で抱えるぐらいの岩を持ち上げると晋助目掛けて投げつけた。
「ぎゃぁ……ああぁああ!!」
間一髪で岩を避けたが、足場の悪いところに立っていたので晋助はそのまま後ろに転げ落ちる。
「二度とツラ見せんなっ!!」
怒鳴りつけ洞窟を出ようとする銀時を、兎が呼び止めた。
「待つっス!晋助様は…ずっとアンタに会いたがっていたっス。アンタを探してここまで来たっス」
性格はあの頃から変わっていないようだ。生意気で素直じゃなくて、食べないと分かっていても虎なんかと旅をしてきたのだからきっと寂しかったのだ。
十四郎と出会ってその気持ちが理解できるようになった銀時は、振り返って、
「……お前らもあの森に住めよ。そしたら遊んでやらねーこともねー」
そう言って洞窟を出た。
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