学園設定(補完)

□3Z−その7
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#96

作成:2019/04/26




「5月5日って俺の誕生日だろ?」

「存じておりますよ」

「欲しいものがあるんだけど……」

放課後の国語科教科室。

土方が部活終わりに短い逢瀬にやってきてそう言い出し、ちょっとした書類仕事をしていた銀八は顔を上げる。

去年の夏、すったんもんだあって付き合うようになっていた二人にとって、初めての"土方の誕生日"。

何か欲しいものがあるか、と聞いたら、考えておく、と言われていた。

その時の答えをくれるらしい。

「何?」

「俺が嬉しいものと、先生が嬉しいもの、どっちがいい?」

そう言って土方は裏返しの小さな紙を銀八に差し出す。

どうやらその紙に"欲しいもの"が書いてあるようだ。

「俺の嬉しいもの? お前の嬉しいもんでいいぞ」

「いいから。どっち?」

ぐいっと紙を差し出してくる土方は何やら楽しそうで、改めて銀八はその紙を見た。

普段から薄給の銀八にあれ買ってだのそれ驕ってだのちっっっっとも言わない土方なので、そういう類いの"欲しいもの"じゃないのは分かる。

銀八はちょっと考えてから、向かって右側の紙に手を伸ばそうとしたら、

「……じゃあ、こっち……」

土方の手がそれを阻止して真面目な顔で言った。

「見たら、ちゃんと叶えてくれるんだろうな」

そう念を押されるとちょっと怖い。

「…………金はないぞ」

「んなの分かってる。金はかからないから心配すんな」

あまり理解良すぎるのも大人として情けなくなるが、へんに見栄を張らなくて良いので助かる。

そんな土方の"欲しいもの"が何か気になるので、

「……俺にできることなら、まあ、なんとかする」

そう答えたら、土方は満足そうに笑って紙を差し出してきた。

ので、ちょっとドキドキしながら銀八はそれを手に取りめくってみる。

書かれた内容を見て、銀八は眉間にシワを寄せた。

"土方を家に招待してエッチなことを思うのまま好きなようにできる"

チラリと土方を見ると、にいっと嬉しそうに笑っている。

「ちぇーっ、"先生が嬉しい"ものになっちゃったなぁ」

そう言われても、銀八には都合が悪い内容だった。

となると、気になるのは"もう一枚"に書かれていること。

「……そっちも見せろ」

「引き直しは無しですぅ。ズルはいけませんん」

「いいから見せろ」

銀八に言われて、全然イヤそうじゃない顔で差し出したもう一枚の紙には、

"銀八の家に泊まりにいってエッチなことをいろいろされてしまう"

と"土方が嬉しい"ことが書かれていた。

「同じじゃねぇか!!」

「微妙に違うだろ! ……ニュアンスが」

土方の企みに、銀八は深い溜め息をついてから、

「却下」

無下にそう言った。

「!! なんでだ! 叶えてくれるって約束しただろ!」

「できることは、って言っただろ。これはできないから無理」

「で、できないって……せ、先生、ED……」

「違うわぁぁぁ!!」

不名誉なことを言われてきっぱりと断言する銀八だったが、土方はむすーっと不機嫌になる。

「じゃあ、なんでできないんだよ。俺のこと好きじゃねーの」

「最初に言っただろ。高校卒業するまではそういうことしないって」

確かにそう言われた。

言ったとおり、銀八は土方が"良い雰囲気"を作ってもキス以上のことはしようとしなかった。

だから"誕生日にエッチ"なんてベタなシチュエーションを無理矢理押し付けたのに。

土方は納得できないという顔でぼやく。

「……卒業してからできるなら、今だってできるじゃん」

「できるけどしない。お前が学生のうちはいろいろ面倒なんだよ」

「生徒と先生だから? 体裁悪いっての?」

「……そうだ」

「でもキスはするじゃん。ここでしたことだってあるし」

「そ、それは…………それぐらいなら……まあ、なんとか言い訳できる……気もする、から」

歯切れの悪いことを言う銀八に、ずっと"してくれない"ことを不満に
思っていた土方が、言わずにいたことを口にする。

「……だったら、付き合ったりしなきゃよかったんだ……」



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