学園設定(補完)

□逆3Z−その4
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#58

作成:2017/12/15




土方十四郎は暗くなりはじめた駅前で、ハガキを片手に腕時計を見て溜め息をついた。

ハガキには同窓会のお知らせが印刷されていて、会場はここから徒歩10分、時間は午後6時。

腕時計の表示している現在時刻はその時間を過ぎていた。

常々生徒に"時間厳守"を言い聞かせてきた土方にしてはめずらしいことだ。

会場へ向かう足取りが重い。

"約束"が果たされるかどうか、不安で仕方ない。

4年前、初めて担任を務めたクラスの生徒たちを見送った。

何もかもが新鮮で大変で苦労した日々を思い出して感慨深かった卒業式のあと、タガが外れて言うはずのなかったことを言ってしまった。

初めての担任ということで割と大人しい生徒が多いクラスを宛がわれたが、その中に適当でいい加減な生徒が一人。

「就職も進学も、無理して今、決めなくてもよくね?なるようになるって」

面談であっけらかんとしてそう言われ、真面目にコツコツ頑張って教師になった土方を愕然とさせた。

こういうタイプは苦手だと思っても、担任として放置するわけにもいかない。

なんとか進路を決めさせようと何度も話したり、様子を見たりしているうちに、"適当でいい加減"でも悪い意味じゃないことを知った。

"今の自分に何が必要なのか"、ちゃんと分かっている。

将来を悲観してるわけじゃなく、自分らしく自分のためにゆっくりのんびり歩んで行こうとしている。

土方にはその斬新で新鮮な考え方に感心はしたものの、担任教師としてそれを傍観するわけにはいかないような気がした。

ゆっくりのんびりも良いけれど、今だからこそやっておいたほうが良いこともある。

なので彼の話を聞いて、そのために最適な道を、方法を一緒になって考えて、一緒に努力してやった。

そして遠くて有名でもないが楽しめそうな大学へ合格したことを、卒業式の日に知らせてくれたのだ。

他の生徒たちが全員校庭へ出た教室で、二人きりになると照れくさそうに言われた。

「頑張れたのは先生のおかげだよ。ありがとう」

「…………それは……お前が頑張ったから……」

「うん、俺も頑張ったけどさぁ……先生が一生懸命一緒に考えてくれたから、俺もやる気出すしかねーなって」

土方の思いはちゃんと伝わっていたのだと、生徒に感謝されることがこんなに嬉しいことなのだと、教えてくれた。

ただ一つ、必死に隠してきた気持ちがある。

「だからさ、何かお返しがしたいな〜なんて思ったんだけど……先生、なんかして欲しいことないか?」

一生懸命だったことに、"担任として生徒が大事だから"、ということ以外の理由があることを。

「ま、たいしたことはできねーけど、できるだけのことはするからさ」

適当でいい加減で、自分に正直で真っ直ぐで、楽しそうに笑う姿に惹かれていたことを。

「先生?」

「………俺と……付き合ってくれ……」

「……は?」

きょとんとした顔を見て、言うはずのないことを、言ってはいけないことを言ってしまったことに気付いた。

「!!! あ、いや……その、いまは……」

誤魔化してなかったことにしたかったのに、上手い言葉が出てこない。

うろたえたことで余計に確信を持たせてしまったようだった。

「それって、先生が俺を好きだってこと?」

「……それは……そういうことじゃ……」

「せーんせ?」

もう誤魔化せないから落ち着いて、そんな顔をされる。

もう観念するしかなくて、土方は気まずいやら恥ずかしいやら、情けない気持ちで白状した。

「……そうだ。俺は……お前が好きなんだ」

「好きだから俺に協力してくれたの?」

「違う……頑張ってるお前を見てて、好きになったんだ……と思う」

嘘は言っていなかったけれど、"一生懸命で良い先生"と思われていたイメージを崩してしまったかもしれない。


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