学園設定(補完)

□3Z−その5
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#57

作成:2017/12/10




始業のチャイムが鳴る寸前、駆け込み登校してくる生徒を取り締まる門とは別の入り口からコソコソ登校する教師の姿があった。

何か布に包まれた物を大事そうに抱え、上靴に履き替えると職員室とは逆の方へ向かう。

当たりを見回してから開けたドアは保健室。

「ヅラ」

「ヅラじゃない桂だ。なんだ銀八、朝一でここに来るなんて。また二日酔いの薬か?」

呆れた顔でそう言ったのは同僚であり、幼馴染で腐れ縁の桂だった。

「違う!……ちょっと……コレ、預かっててくれねーか」

心外だという顔をしながら、銀八は桂の元まで近付いて手の中の荷物を差し出す。

「なんだ? また怪しげな物を買ったんじゃ…………!!?」

腐れ縁だけに銀八の"くだらない物を衝動買い"癖を知ってる桂は、受け取ろうと差し出した手を思わず引いた。

その荷物がモゾモゾと動いたからだ。

「貴様、犬猫じゃあるまいな。学校にそんなものを持ち込むなんて……」

そう言いながらも桂は少し嬉しそうだった。

銀八もやはり腐れ縁だけに桂が小動物好きなのは知っているが、残念ながら"そういう"小動物ではない。

「……まあ、可愛い生き物ではあるんだけどな……」

「?」

歯切れの悪い言い方をする銀八から受け取り、包んである布をぺらりとめくったら、

「はぷん」

クリンクリンの猫っ毛のふてぶてしい相貌をした銀髪の赤ん坊がいた。

桂の顔が驚いた表情から心底呆れた表情に変わったのを、銀八は気付いた上で、

「……銀八、貴様……」

「違うから!俺にそっくりだけど俺の子じゃねーから!!」

言われそうなことを先読みしてすかさず言い訳をする。

そうは言ってもすぐには納得してもらえないぐらい、赤ん坊は銀八に似ていた。

「その言い訳は無理があるぞ。貴様にクリソツではないか」

「従兄弟の子供だよ!ソイツが俺に似てるんだから、子供が俺に似たって仕方ねーだろ!」

「……ああ、"大人になってから偶然会って似てるなと思っていたヤツが実は遠い親戚だった"、とか言っていたヤツか」

「説明どーも。ソレだよ。体が弱くて入院してるらしーんだけど、奥さんが急な用事で子供を預ける人が居なかったらしくてな……」

早朝の電話で起され、今日だけどうしてもと頼まれたのだ。

金のないときに飯をご馳走になっていた手前、困っているのを無下に断れず、だが銀八のほうも子供をどこかに預けるツテがあるわけでもなく、連れて登校してしまったという次第。

「今日一日だけだから!なんとかこっそりここに置いてくれねーか」

「……まあ、そういう事情なら預かるのはかまわんが……こっそりじゃなくてもいいんじゃないか」

「ばか、おめー、こんなの生徒に知られたら面白がられるに決まってんだろーが」

銀八が嫌そうにそう言った顔と、腕の中の赤ん坊が迷惑そうにしている顔がそっくりで、桂は内心で笑う。

だからこそ銀八が危惧するように、生徒にバレたら想像するに容易い事態になりそうだと理解した。

「分かった、なんとかしよう」

「まじでか! 助かるよ、ヅラ」

「ヅラじゃない桂だ。授業の空き時間には来て面倒見ろよ」

「ガッテン!」

ホッと一安心したとろこでチャイムが鳴り、銀八は慌ててクラスのHRに向かう前にもう一度振り返り、

「くれぐれも生徒にはバレるなよ!絶対に内緒だからな!!」

そう釘を差して保健室を出て行った。

嵐の過ぎ去った部屋で、桂はハッと気が付く。

「名前を聞き忘れたな…………そうだな……銀八からとって……銀楽とでも呼ぶか。よし、銀楽、大人しくしてろよ」

「あぶー」

勝手に名前を付けると、やる気のない顔で返事をした赤ん坊に、"やっぱり似てる"と笑ってしまう桂だった。


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