学園設定(補完)

□3Z−その4
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#48

作成:2017/07/30




「そんなに好きならいい加減に告ったらいいんじゃねーですかぃ」

「……いやだ」

「ウジウジしている間に他のヤツに掻っ攫われちまいますぜぃ。ああ見えて割とモテるらしーんで」

「………」

「高校生活最後の夏を受験勉強と片想いの鬱々とした気分ですごそうなんて、たいしたドMぶりでさぁ」



通りすがりの窓の外からそんな会話が聞えてきて、銀八はつい足を止めた。

その会話の声に聞き覚えがあったのと、それが当たっているなら当人からは想像できない内容だったからだ。



「……どうせフラれるんだから、それはそれで鬱々とするだろうが」

「あれぇ、銀魂高校一のモテ男の土方さんらしからぬ謙遜ですねぇ」



やっぱり。

窓の外は日当たりの良いベランダで、真夏にそんな場所で日向ぼっこをしているモノ好きな声の主は、自分のクラスの土方と沖田で当たっていた。

へえ、と感心するような気持ちで銀八は立ち聞きを続けてしまう。

“銀魂高校一のモテ男”という通り名は教師の銀八の耳にすら届いていた。

今時の女子高生はこういうタイプが好きなんだ、としみじみ観察したことがある。

整った顔立ち、一見は線の細いスタイルなのに剣道部所属でなかなかの腕前、男友達と一緒にいるほうが楽しくて女子に愛想を振舞わない。

女生徒の間から土方の名前はよく聞くのに、誰かと付き合っているという話はなかった。

どうやらそれは土方に片想いの相手が居るから、となれば教師でも興味が引かれる。



「……んなもん、アイツに通用しなきゃ意味がねー……」

「そうですかぃ? 土方さんがもっと素直に懐いてやれば、意外とコロッと落ちるんじゃねーかと思うんですがねぇ」

「……な、懐くって……」

「“この問題が分からないんで教えてください”とか“相談したいことがあるんです”とか、可愛げのある顔を見せるんでさぁ」



アドバイスはなかなか的確だったが、それそれで銀八の知っている沖田らしからぬなと思ってしまう。

銀八の知っているかぎり土方と沖田は、見かけとは裏腹に“いじられる側”と“いじる側”に位置し、何かされては土方は沖田を怒り、沖田はそれでもケロッといたずらを繰り返す。

だから、後々からかいのネタになるような恋愛の相談をしたりされたりするような関係には見えなかった。

もっともそれは銀八から見えた二人の関係であり、本当は仲が良かったんだなぁ、と感心したのだが、そうじゃないことを銀八は知る。



「……今更だろうが……」

「何言ってんですかぃ、俺たちは受験生ですぜぃ。受験を前に不安や悩みを抱える生徒を演出するにはもってこいじゃねーですかぃ」




沖田の言い回しに銀八は『あれ?』と首を傾げる。

土方の立ち位置を受験生だとか生徒に置くと、話の内容から片想いの相手は教師ということになってしまう。

土方が片想いで悩んでいるのさえ驚きなのに、まさか相手が教師だとは。

ついつい該当しそうな教師を頭に思い浮かべてしまったが、聞えてきた名前は思いも寄らぬ名前。




「それこそ今更じゃねーか? 今までそんなことしたことねーのに」

「だからこそ、ですぜぃ。“今まで素っ気なかった土方くんが俺に相談なんて、きっと不安なんだな。可愛いとこある”って、銀八も思うはずでさぁ」



「……はぁぁぁぁ!?」

俺!?

思わず声を上げてしまったせいで、窓の外の二人が驚いて顔を出す。

立ち聞き丸分かりでシラを切ることもできそうになく、俺も慌てて言い訳をした。

「……悪ぃ、聞くつもりはなかったんだけど……」

あからさまな嘘をついてヘラっと笑った銀八に、驚きで声も出ないでいた土方の顔が真っ赤に染まる。

「っ!!!」

片想いしていることを本人に知られてしまったことは、土方のようにモテるのに恋愛ベタな青少年には耐え難いことだったろう。


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