学園設定(補完)

□3Z−その3
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#42

作成:2017/01/16





土方十四郎は毎日が充実していた。

学校生活にも慣れ、部活動も楽しくなってきた。

割と複雑な家庭の事情で苦労することも多かったが、楽しいと思える時間のほうが多い。

あいにく幼馴染の近藤たちとはクラスが分かれてしまったが、クラスメイトも良い奴らばかりだった。

放課後、近藤たちと一緒に剣道場に向かいながら、このまま毎日楽しく学校生活を送れたらいいなぁ、なんてことを考えて恥ずかしくなってしまう土方。

だが“平穏”だと思っていた生活を、一転させる声が頭上高くから届く。

「うぉーい、あぶねーぞー」

呑気な声に一瞬何のことか分からなかった土方たちだったが、思ったよりも“危ない”ものが近藤の足元にすとんと落ちてきた。

きらりと光る包丁が地面に突き刺さっている。

「ぎゃぁぁぁぁ!!!」

思わず飛びのいてしまった近藤は、安否を気遣うやっぱり呑気な声に怒鳴りかえす。

「だいじょうぶかぁ?」

「“だいじょうぶかぁ?”、じゃねーよ、銀ぱっつぁん!!あぶねーだろーがっ!!」

どうやら声ですぐに分かったらしいが、怒鳴っている相手は近藤のクラス担任の坂田銀八。

土方も声のしたほうを見上げると、4階建て校舎の最上階の窓から銀色の天パーが顔を出していた。

土方は授業を受け持ってもらっていないため近藤から聞いただけだが、かなりふざけた教師だというのは今のだけで十分理解できた。

「だからあぶねーって言っただろうが」

「あんな低いテンションで言われて分かるかぁぁ!!」


「テンションのダメ出しまでされたくねーよ。それより、それ、投げてくんない」

4階からでも分かるぐらい抑揚のない声で、とんでもないことを言い出した銀八に、近藤も聞き返してしまった。

「……それって何を」

「包丁に決まってんだろ。取りに行くのめんどーなんだよ」

「んなもん投げられるかぁぁぁ!!」

「俺が投げてやりまさぁ」

さすがに包丁を頭上4階まで投げる勇気がない近藤に対し、しれっとした顔で沖田が包丁を取ろうとするので、嫌な予感しかしない土方は素早く横取りした。

“教師に向かって包丁を投げる”というのも面白がりそうだが、それよりも失敗したフリをして自分に落しかねない、と思ったからだ。

「やめろ」

「ちぇーっ」

止められると分かってたくせに大袈裟に拗ねる沖田を無視して、土方は包丁片手に校舎を見上げる。

いい加減な教師だと聞いていても、元来生真面目な土方の癪に触った。

「自分で取りに来いよっ!」

話をしたこともない、しかも教師に向かってそう叫んだ土方だったが、そんなことを気にするような銀八ではなかった。

面倒くさそうに、

「あー、じゃあいいわ。そのへんに置いといて」

ぴらぴらと手を振って、窓から出していた頭を引っ込めてしまう。

包丁を生徒が往来する場所に置いたままにできるわけも、していいわけもないのに、面倒くさいという理由でやる教師。

「なんだあいつ!」

キレた土方に、近藤は半笑いだ。

「だから、ああいうヤツなんだって」

「慣れたら面白いもんですぜぃ。それ、俺が届けてきまさぁ」

言いながら土方から包丁を受け取ろうと沖田が手を伸ばしてくるが、大方サボリの口実だろう。

それにあのいい加減な教師にもう一言二言言ってやりたくて、

「俺が行ってくる」

気合いを入れて包丁を握りしめる土方だった。




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