学園設定(補完)
□3Z−その2
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#10
作成:2015/10/09
10月の冷え込む早朝。二度寝を決め込んで布団に丸まった銀八は、
“ピンポーン”
玄関のチャイムに眉を寄せて時計を見る。7時30分。
「…こんな早くに、なんだ………………ぐぅ………」
“ピンポーン”
「……ぐぅ……」
“ピンポーン、ピンポーン”
「……ぐぅ……」
“ピンポンピンポンピンポンピンポンピンポン”(連打)
「……のやろー……」
起き上がって眼鏡をかけながら玄関に向かう足取りは臨戦態勢で、あんなチャイムの押し方をするのはマトモなヤツじゃないだろうと、ドアを開けると同時に、
「うる……」
“スパパパパパパーン!!”
怒鳴ろうとした動きを止める発砲音と、
「銀八せんせーっ、誕生日おめでとうございま〜〜〜すっ!!」
ずらりと並んだ見飽きた顔ぶれがクラッカーを手に握り、銀八を出迎えた。
10月10日(土)は銀八の誕生日。
そのために休日わざわざ生徒たちが祝いに来てくれた。その事実はたいへん美しいものだったが、なにせ早朝の気持ち良い二度寝を邪魔されたために、銀八の感動8割減。
「はい、ありがとー。それじゃ……」
そのまま閉じようとしたドアを数名の手が押さえてこじ開けられた。
「離しなさいよコノヤロー」
「いやいやいや、まだあるから、ちゃんとしたお祝いが」
「そういうわけで、おじゃましや〜す」
「おいぃぃぃ、ちょ、お前ら……」
沖田を先頭に、近藤、新八、神楽、お妙。そして最後に土方がトボトボと入ってくる。
それぞれ手にはレジ袋だの紙袋だのを持っていて、中に入ると早速なにやらセッティングを始めた。
「ったく……なんなんですか、お前ら、こんな朝早くに」
「朝早くに押しかけねーと出かけるかもしれねーですよね、パチンコに(断言)」
「…ぐっ…」
寂しい独身男の休日の姿を見破る沖田に、銀八は反論もできない。
「思ってたより広いなー。先生、ここ家賃いくら?」
「でもボロいネ。日当たりも悪いし、きっと壁も薄いアル」
「そうねー、若い女の子にはウケなさそうよね」
新八たちも勝手なことを言い合いながら銀八の私物を脇に寄せて食べ物や飲み物を並べているが、どう見てもここにいる6名では飲み食いしきれない量だった。
「お前ら何日居座る気なんだ、この量」
「クラス全員分です。先生の部屋は狭くて全員は入れないだろうから、みんな時間をずらして来るんですよ」
なるほど着眼点と気配りはすばらしいが、家主の予定や意見はまったく取り入れていない。
「全員んんん!?……気持ちはヒジョーに嬉しいけどな?先生にだって予定ってもんが……」
「またまた、俺ら以外に誕生日を祝ってくれる人なんかいねーでしょう」
「俺にだって祝ってくれるヤツの一人や二人……」
「………」
「………」
「………」
「………いねーけど」
「はい!先生、かんぱーいっ!!」
分かっていたオチを合図に銀八にグラスを握らせると、全員で乾杯をして、誕生日パーティという名目のどんちゃん騒ぎが始まった。
銀八にはビールが振舞われていたが、沖田たちはジュースを片手によくここまで騒げるものだと感心しつつ、ここが集合住宅である以上、
「おいお前ら、近所迷惑になるからあんま騒ぐなよっ」
そう注意すると、お妙がにっこり笑って答えた。
「大丈夫です。ちゃんと許していただけるよう先手は打ってありますから」
「??」
「銀八ぃ、ローソク消すアル、願いごと言うアル」
大きいケーキに刺した28本のろうそくの炎はちょっとした小火状態で、これを一息で消すのは中年目前の国語教師には難しいかもしれない。
しかしせっかく用意してくれたものなので、ちゃんとノッてやるのも大人の礼儀だ。
「……お前らが早く帰りますように。 …すぅぅ……ふーーーーーーーー……っ……ぐっ……」
「はい、失敗〜。願いも叶いやせんねー」
半分以上残ったろうそくの炎に、本日の行く末が見えるようだった。
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