原作設定(補完)
□その8
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#71
作成:2015/06/06
1 / 2「土方、み〜っけ」
「……………」
「いや、そんな冷静に睨まれたら傷付くじゃん」
仕事が忙しいと2週間全く会えていない恋人の姿を見つけた銀時が、優しくぎゅーっと抱き締めたにも関わらず冷たい視線を向ける土方。
だが、それも無理はなかった。
『ホモのバカップル?』という顔で二人を見つめる人の目が、ぐるっと360度。人で賑わう休日の街中だったからだ。
「土方さぁん、仕事中ですぜぃ」
「分かってる!おい、いい加減離せっ」
しらけた声で沖田に注意されたので、土方は腰に巻きついた銀時の手を剥がそうとするが、離れるどころかペタペタ、スリスリと腰や腹を撫でまくる。
「て、てめー……」
「…土方くんさぁ……なんか痩せてね?」
「……そ、そんなことねーよ」
「嘘ぉ。触り心地がいつもより悪ぃよ?」
首を捻りながらなおも触りまくっている銀時に、沖田を含む周りの視線が痛くなった土方は肘を銀時の脳天に叩き込み、地面に倒れた恋人を放置して立ち去ってしまった。
「お、どうした万事屋?頭痛か?」
「……おたくんとこの副長さんに殴られたんですぅ。警察の不祥事じゃね?」
「だはははっ、どうせお前がセクハラでもしたんだろ。逆に訴えられるぞ」
二人のことをよく知っている近藤に見破られ、銀時は頭をさすりながら上体だけ起して地面に座る。
「つーか、あんたらどんだけ忙しいのよ。土方痩せてんじゃん」
「……あ〜、それなぁ。俺も困ってんだよ」
近藤の話では、忙しくなりはじめた2週間前から、土方の食欲がどんどん無くなっていっているらしい。
食事をしてる様子が全くないので時間が合ったときは一緒に食べるようにしているが、近藤自身もお妙のストーカーができないほど忙しかったためどうも時間が合わない。
他の隊士たちの言うことを聞くような土方でもなく、気合だけで働いているような状態だった。
黙って話を聞いていた銀時が、何かを思いついたようだ。
「じゃあさ…」
「お〜ま〜た〜せ〜っ」
「……………」
「いや、そんな冷静に睨まれたら傷付くじゃん」
「それさっき聞いた」
バーンと襖を開けて入ってきた銀時に、土方が冷たい視線を向ける。つい3時間前にも同じやりとりをしたばかりなので、冷たさも増量だ。
全然傷付いてない顔でズカズカと副長室に入ってきた銀時は、机の前で書類整理をしていた土方の隣に座り込み、持っていた紙袋を差し出す。
「……なんだ?……」
「万事屋デリバリー。銀さん特製弁当ですっ」
「はあ?」
大き目の弁当箱ふたつを畳の上に並べ、1つにはおにぎり、1つにはおかずがぎっしり。
「………なんだコレ」
「だから弁当」
「だから、なんで弁当なんか…」
「ゴリさんに頼まれたんだよね。飯食ってねーんだろ?銀さんのゴットハンドはごまかせませんんん。ゴリにも聞いたしな」
反論する言葉に詰まる土方に、銀時はおかずの箱から卵焼きを箸で取り口元に差し出した。
「はい、あ〜〜ん」
「……………」
「だから、冷静に睨むなって。自分で食わないなら俺が食わせてやるから、ありがたく思えコノヤロー」
そう言う銀時の顔は完全に楽しんでるとしか思えないから、土方は箸の先の卵焼きを手づかみで取って口に入れ箸を取り上げる。
「自分で食うっ」
「はい、ど〜ぞ〜」
銀時の満足そうな笑みに、自分が思い通りに動かされているのに気付いたが今更引けない。
しぶしぶという表情で土方は弁当を食べていくが、何かいまひとつな気がする原因に気が付いた。
さっと机の下から取り出したマヨを持つ腕を、銀時が掴んで止める。
「マヨ禁止だ」
さっきまでふざけていたくせに急にマジになった。
「……マヨは何にでも合う万能調味料……」
「分かってるけど、今日はダメですぅ。不味かったらかけていいから」
そう言われたらかけにくい。実際弁当は美味いのだが、常にマヨ尽くしだった土方には物足りなく感じてしまうだけだ。
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