原作設定(補完)

□その53
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#525

作成:2020/02/16




「よう」

「お、おはようございます」

2月だというのに暖かな日差しのお昼前、万事屋にやってきた土方を微妙な面持ちの新八が迎えた。

たまには昼間にデートしたい、と銀時にねだられたため早い時間の訪問となったので、その表情の意味を察する。

「まだ寝てんのか? てめーんとこのぐうたら社長は」

自分から言い出したくせにと呆れ気味の溜め息をつく土方に、新八が慌てて言った。

普段はぐうたら社長でも、対土方となればいつでも誠実に頑張っていたので訂正しなくてはならない。

「いえ、起きてます……でも、その……」

「? どうした?」

「それが……」

煮え切らない態度の新八が奥の部屋をちらりと見たとき、何かがひょこっと現れた。

明らかに子供、それもヨチヨチ歩きができる程度の小さい子供だったけれど、その風体が問題だった。

銀色のくるくるっとしたもう毛髪、子供にあるまじきふてぶてしい顔。

どこかの誰かに瓜二つだ。

「あ! ちょっ……まだ……」

新八が慌てた様子を見せるが、ここで「万事屋の隠し子か!?」と動揺したり怒ったりするほど土方も物知らずではない。

「ソイツ……例のなんとかっていうガキか? 万事屋にくりそつだっていう……」

銀時が以前、銀時にそっくりな赤ん坊をめぐってトラブルに巻き込まれた、という話は聞いている。

総悟に「旦那に隠し子が居たんですぜぃ」という話を聞いて、仕事終わりに万事屋に乗り込んでみたら事は片付いていた。

新八と神楽の説得により話は理解したけれど、そんなに似てるなら一度拝んでみたいと思っていたのだ。

こっちに向かってよちよち歩いてくる姿は確かに銀時にそっくりで、その可愛い姿に内心で「わぁぁ」と歓喜の声を上げながらその子供を迎えようとしたのだが、申し訳なさそうに新八が言う。

「違います」

「違う?」

となれば、たまたま銀時に似ている子供が万事屋に持ち込まれる、なんて案件が何度も発生するわけがない。

たまたまでなければ必然だ。

「……じゃあ……今度は本当にアイツの子供か!? 万事屋ぁぁぁぁ!!」

そうであれば奥の部屋に隠れているであろう銀時に怒鳴ってみるが、よちよちとようやくたどり着いた子供が土方の足に抱きつく。

見下ろしたら目が合い、

「だあっ」

そう"返事"をされた。

「……あ?」

「……銀さんの子供じゃなくて……本人です……」

「…………………あ?」

新八にとんでもないことを言われ、土方はたっぷり考え込んでからマヌケな返事をしてしまう。

嘘だろ、という顔でもしていたのか、足にしがみついている子供は、

「あばぁっ」

そう言って土方の足をくいくいと引っ張る。

抱き上げろと言っているような気がして、土方は恐る恐る両手でその子供を掴んで持ち上げた。

こんなに小さい子供を抱いたことがないのでぷらーんとさせたままでいたら手を差し出されたので、左腕に支えるように抱き寄せてみる。

柔らかい体に、温かい体温。

赤ん坊ってこんな感じなのかと感慨に耽っていたら、土方からは見えなかったけれど、ヒヤヒヤしながら側にいた新八からは見えたらしい。

「あ」

にやりと笑った子供はぐいっと土方の襟を掴み、そのまま土方の唇にちゅーっと口付けた。

端からみたら可愛いシーンだったけれど、この子供が銀時だというなら別だ。

瞬間で我に返った土方が子供をぺいっと投げ捨て、慌てて新八がそれをキャッチする。

「……万事屋、てめー……」

「わぁぁぁぁ! 落ち着いてください、土方さん!」

新八に止められて、なんとか"子供に暴力を振るう大人"という構図からは逃れる土方だった。


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