原作設定(補完)

□その53
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#522

作成:2020/02/11




2月のある日。

土方十四郎は久々の非番だというのに時間を持て余してかぶき町をプラプラと歩いていた。

非番は不定期だったけれど、電話をすればほぼほぼ出て来てくれる暇な恋人は、生憎仕事で江戸に居ないことを知っている。

ので、屯所に居ても仕事をしてしまうので出てきたのだ。

そうは言っても怪しげな連中がいないかついつい辺りの様子を探ってしまうので、本当に休めているとは言いがたい。

今も、自分をコソコソつけてくる気配を感じていて、小さく溜め息をついた。

相手が攘夷浪士だったらむしろ嬉しいぐらいなのだが、この気配は違う。

殺気は無いし、何か言いたいことがあるようで、出るタイミングを計っているような気がする。

放っておいてもいつか出てくるかもしれないが、いつまでも着いて来られると迷惑なので、自然と物陰に隠れて慌てて追いかけるのを待った。

ひょっこりと姿を見せたのは、

「……チャイナ?」

声をかけられて露骨にしまったという顔をしている神楽だった。

明らかに"ついて来ている"と思うから声をかけたのだが、神楽ならそんなコソコソする必要はないのに。

「どうした? というか、仕事じゃなかったのか?」

「…………今日の仕事は銀ちゃんと新八だけで行ったアル」

「そうか。で? 俺に何か用か?」

改めて訊ねたら、神楽はしばらく言いにくそうにモジモジしつつ言った。

「頼みがあるアル」

「頼み? 腹が減ったのか?」

「いつでも腹空かしてるって決め付けるなアル! 失礼ネ!」

「悪い。じゃあ、なんだ?」

神楽のあしらい方も慣れてきたもので、土方はさらっと謝って更に追求する。

神楽はやっぱりモジモジしながら答えた。

「……お、お前、銀ちゃんに……チョコ、上げないアルか?」

「……チョコ?」

「もうすぐバレンタインデーアル」

「ああ……やる予定はねーな」

「なんでアルか! 銀ちゃん、チョコ大好きネ!!」

「知ってる。だけど、俺がアイツにチョコやるってのも……おかしくねーか?」

「そんなことないネ! 銀ちゃん、ものごっさ喜ぶアル!」

やたら力説しているところを見ると、土方にチョコを贈らせたがっているらしい。

土方がまず疑ったのは銀時本人だ。

チョコが欲しいがために神楽を使ってのアピールなのかと思ったのだが、

「アイツに言われたのか?」

「違うアル! わ、私がおせっかい焼いてるだけネ」

なんて言われてしまった。

嘘を言っているようには見えなかったので銀時の疑いは晴れても、神楽になにか思惑があるのには違いない。

「じゃあ、なんだ? なんで俺にチョコ買わせたいんだ?」

「か、買わなくていいアル」

「……ん?」

「……て、手作りにしようと思ったけど……失敗したネ……」

ようやく白状した神楽に、土方は"なるほど"とすぐに理解する。

「俺に手伝えって?」

「本を見てもよく分からなかったヨ」

「他に誰か居るだろ……メガネの姉貴…………は、無理として、下の店のばあさんたちとか……」

「チョコって柄じゃねーアル」

それなら俺だって、と思う土方だったが、神楽にとって"土方でなくてはならない"理由はちゃんとあった。

「それに……もう材料が無いネ…」

『買えってか! チョコの材料も買ってやれってか!』

人を財布扱いするところまで保護者にそっくりでイラッとするけれど、土方を見つけてもなかなか声をかけてこなかったあたり、少しは気を使っているのかもしれない。

そんなのは神楽らしくないな、と思えるぐらいには知った仲だ。

『…本があるなら…なんとかなるか?』

自信はまったくないけれど、期待と不安が混ざった顔をしてる神楽が、

「……分かった。手伝ってやるよ」

「まじでか! さすがトシ! イケメンアル!!」

満面の笑みになってくれるなら、満更でもない気分の土方だった。


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