原作設定(補完)

□その52
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"何"が銀時をそうさせているのか、それを確かめるまでは土方も引けないのだ。

「……だったら、もっとちゃんと断ってくれ」

「……あ?」

「もう二度と顔も見たくねー。側に寄るな。声も聞きたくねー……そうはっきり言えばいい」

ガツンと言って貰えればもしかしたら諦める気になるかもしれない、と思って土方はそう言ったのに、

「……そ、そこまで嫌がってるわけでもねーのに、そんなこと言えるわけねーだろ……」

銀時からの返事はそんな気弱なものだった。

ほらみたことか、と土方は開き直る。

「だったらやっぱりここに泊まる」

「……は、はあ?」

「てめーがその気になるように一緒にいてやるから覚悟しろ」

ふんと鼻息荒く威張る土方に、銀時も慌てて粘ってみる。

「だ、だいたい、うちには神楽もいるし、仕事だってあるんだからおめーに居座られても迷惑なんですけど!」

「チャイナは帰ってこねーよ」

「……え?」

「来る途中で会った。三日間はメガネんとこで世話になるって話をつけた」

「!!? し、仕事があるから出勤して……」

「来ねーよ。仕事は屯所の軽作業を飯付きで提供してきた」

「!!!? ほ、他の依頼だって……」

「それもねー。そこの電話は屯所に転送されるよう手配したから、万屋への依頼は山崎が代理で請け負うよう命令しておいた」

「どこまで手回し良いんですか! そこまでする!?」

銀時の考えそうな"逃げ口上"は土方には想定済みなのだから、手回しするのも容易いものだ。

悔しそうに嘆く銀時に、

「そこまでするんだよ。覚悟しとけ」

にやりと笑って答えてやる土方だった。

が、土方の思い通りになるのは銀時としては面白くない。

とは言っても、追い出そうとしてもたぶん大人しく出て行ってはくれないだろう。

だったら三日間、できるだけ関わらずに過ごせばいいだけだ。

そう思った銀時は、早速不機嫌丸出しの顔でそっぽを向き、椅子に座ってジャンプを広げた。

マガジン派の土方には銀時の読書の邪魔はできないはずだ、と名案のつもりだったのに、土方は違うことを言ってきた。

「腹減ったな。飯にしねーか」

「…………勝手にすれば。俺は作らねーよ」

「ああ、俺が作る」

「……え……」

拒絶するつもりが、思いもよらぬことを言われてついつい聞き返してしまう。

「お前、料理すんの?」

「江戸に来る前はちょっとな。まあ、凝ったもんじゃなきゃなんとかなる」

「……ふーん……」

「じゃあ台所借りるぞ」

そしてテーブルに置いたレジ袋を持って、土方は台所へ向かった。

チラッと見ていたので分かってはいたが、袋の中身はおそらく三日分の食材なのだろう。

食材持参で来るあたり、本当に抜け目が無い。

何を作るつもりか知らないけれど、"なんとかなる"と言ったのだから銀時は手出しするつもりはなかった。

無かったのだが、

「……んん? ……あ!! ……えーっと…… イテッ…… あーあ……」

という土方の独り言が聞えてきて、どうにも落ち着かない。

挙句には、

「……まあ、マヨネーズかければ食えんだろ」

とか言い出されたら黙っていられるはずもなかった。

たまらず銀時が向かうと、台所は見事に"料理を全然しない男が挑戦しました"という惨状になっている。

「もういい、俺がやる」

「あ? だけど……」

「うちの台所をこれ以上荒らされたら迷惑なんだよ。料理できねーヤツは大人しく向こうで待ってろ」

「…………分かった」

言われても仕方ないと思ったのか、土方はしゅんとしながら引き下がってくれた。

深い溜め息をついて銀時は慣れた手つきで台所に立ち、20分ほどでテーブルに料理が並んだ。

銀時が料理ができることは知っていたが、実際に見たことはなかったので土方は感心した声を上げる。

「すげーな。作り直したのか?」

「んな勿体ねーことするわけねーだろ。適当に味付けしなおしただけだ。おめーの責任なんだから、不味くても食えよ」

言われてよく見れば、食材の切り口はガタガタのバラバラだしコゲた部分も残っていた。

早速手直しされた料理を口に運んだ土方は、"ちゃんと料理になっている"ことにふっと笑う。

「ちゃんと美味いよ」

「……あ、そ」

素直に褒められたけれど、銀時は素っ気無く返事をした。

ソファに座り向かい合って食事をするあいだも不機嫌はキープしたものの、土方がゆっくり味わうように、そしてマヨネーズを使わずに食事をしてくれたことは、嬉しく思えてしまう銀時だった。


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