原作設定(補完)

□その52
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#516

作成:2020/01/05




三が日が過ぎてもまだまだ正月気分の抜けない日曜日、

「邪魔するぞ」

「え? ちょっ……何? おい」

怖い顔をして乱入してくる土方に、銀時は動揺しまくりながら止めようとしたが無視された。

両手にはスーパーのレジ袋を三つ持ち、背中には風呂敷を背負っている。

土方が荷物をテーブルの上にどさっと置き「ふぅ」と息をついたところで、改めて銀時は文句を言った。

「なんなんですか、上がって良いって言ってませんけど。それに、なにその荷物。余計なもんを家に持ち込まないでくれませんか」

不機嫌そうにそう言ってやったら、同じく不機嫌そうにとんでもない言葉が返ってくる。

「今日から4日間の食料だ」

「あ? 鬼の副長さんが買出しですかぁ。だったらそれを持ってとっとと屯所に帰りなさいよ」

「屯所のじゃねー、ここの買出しだ」

「……ここ?」

「今日から4日間、正月休みになった」

「あ、そう。だから?」

「だから4日間、ここで寝泊りする」

「………………はぁぁぁぁぁ!!?」

叫ぶ銀時にかまわず、土方はソファに座ると懐から煙草を取り出し、キョロキョロと辺りを見回す。

「おい、灰皿ねーか」

「ねーよ!」

「なんだよ、客商売してんだから灰皿ぐらい用意しとけよ」

「そこまで長居する客はいねーし、従業員が未成年なんだから煙草吸うヤツがいな…………じゃねーよ! なにしれっと一服しようとしてんの!? こ、ここで泊まるとか、何勝手なこと言ってんですかコノヤロー!」

土方は怒る銀時をやっぱり無視し、携帯用灰皿を取り出して煙草に火を点けた。

本当に"一服"してから銀時を見る。

「三日、一緒に暮らしてから改めて返事を聞かせろ」

「……な……なんの返事だよ……」

「とぼけんな。一つしかねーだろ」

「……っ……」

土方がやけに落ち着いているせいで、銀時のほうがどうにも落ち着かない。

とぼけてはみたが確かに"何の"返事なのか、すぐに分かった。

1月1日、年明けに神楽と新八に強請られて初詣に行ったとき、隊服のままの土方にばったり会った。

銀時はそこで、土方に告白されたのだ。

いつもと変わりないスカした副長の顔で、

「てめーが好きだ。俺と付き合え」

と男らしくはっきりと言われた。

初詣客が少なくなってきた時間だったし、新八と神楽はおみくじを買いに行ってたし、周りに聞えないように抑えた声だったけれど、真昼間にこんな場所で何を言い出したんだ、と思っても仕方ない状況だ。

喧嘩になってもおかしくない案件だったけれど、

「……お断りします」

そう銀時はちゃんと大人の対応をしたのに。

「……返事はあんときしただろうが……」

「納得できねーからもう一度考えろ」

土方の言い分はかなり勝手だ。

それに腹を立てて銀時のほうもイラついて乱暴に言うが、

「……はあ? 納得できねーとか、そっちのことなんか知らねーよ。つーか、なんでそんなに偉そうなの? 全然頼む態度じゃないよね?」

「てめーのせいだろ」

「だから、そんなこと知ら……」

「俺が何の勝算もなしに男なんかに告白すると思ってんのか」

同じくイラついた土方にそう言われ、銀時は内心でギクリとする。

土方がどうして"勝算あり"と思ったのか、なぜ"納得できない"のか、分かっているからだ。

喧嘩ばかりだったのに、いつのまにか2人で酒を飲んだりするようになった。

その時間がすごくすごく楽しいと感じていた。

もっともっと一緒に居たいと思うようになった。

ソレがどんな感情に繋がっているのかも、ソレが自分だけの気持ちじゃないことも、知っていた。

だけどいい歳の大人で、しかも相手が男となると一歩前に進むには何かきっかけが必要になる。

そのきっかけを切り出すことができずに長いことモダモダしていたところへ、土方が年明けの勢いで告白してくれた。

のに、それを銀時はあっさりと断ったのだ。

土方が納得するはずもない。

自分が考えていることは銀時も考えている、と確信があったからこその告白だったのに。

数日考えて考えて、土方は三日の非番をねじ込んで屯所を飛び出し、万事屋に押しかけた。

強引なことをしていると理解しているけれど、自分を納得させるためにはこうするしかないと思ったからだ。

フラれ男の思い込みでないことは、銀時の様子を見れば分かる。

「し、知るか、そんなこと。自惚れすぎじゃね? モテモテの副長さんは自意識過剰ですねー。俺なんかにかまってねーで、別の相手を探しがほうが早いだろーが」

そっぽを向いてそう言うのが精一杯、という顔をしていた。

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