原作設定(補完)
□その51
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本当はプロポーズを考えるような特別な相手がいて、その人に会いに行ってたんじゃないか、と思ったのだろう。
だったら内緒で付き合うなんてコソコソしたマネしなくても話して堂々と会ったらいいのに。
そんなことを考えながら歩いていたら、神楽が足を止め物陰に隠れたのでそれに続く。
銀時が立ち寄ったのは、いつもの団子屋だった。
別に誰か待っているということもなく、一人で団子を注文し椅子に座ってしまった。
もしかしたら全部神楽の勘違いと早合点だったんじゃないだろうか。
「……デートじゃなくて団子食べに来ただけじゃないの?」
が、離れた場所からでも神楽の鋭い眼光は、銀時の変化を見逃さなかった。
「違うアル。お茶ばっかり飲んで団子を食ってないし、緊張からくる手汗を何度も着物で拭いてるアル」
言われてみて銀時を見れば、確かに落ち着きがない。
「それに通りの向こうを気にしてチラチラ見てるアル」
「待ち合わせの相手が向こうから来るってこと?」
「それも違うネ。待ち合わせしてるんだったら、あんなに"来るかどうか"気にする必要ないアル」
「?? どういうこと?」
「お前はホントにダメガネアルな」
「メガネ関係ねーだろ!」
「"約束してないけど団子屋で密会"してたアル。今日もソレを待ってるんダロ。夜だけじゃなく昼間もコソコソ会ってたってことネ」
なるほど、と新八は感心すると同時に、神楽の洞察力が怖くなった。
幼くても女は女。
色恋沙汰に興味津々で勘が働くようで、怪しまれたら最後、隠し事なんてできなくなってしまうような気がした。
『僕も気をつけよう』なんて、そんな予定もアテも相手もいないのに考えていると、神楽が声を上げる。
「新八、来たアル!」
「え? どこ? 誰?」
「銀ちゃんが誰か見つけたネ。緊張してカチコチになってるアル」
遠目でも分かるぐらい銀時に緊張が走り、それを見ていた新八も息を飲む。
人が多くてまだ相手は特定できないけれど、きっと目の前にきたら銀時が動くはずだ。
そして瞬きもせずに銀時を見つめる二人の視界に、意外な人物が入ってきた。
「あ、土方さん」
「マズイアル。マヨラが近くに居たら銀ちゃん恥ずかしがってプロポーズできないネ!」
合えば喧嘩ばかりの2人なのでそんな心配をしたのだが、それは杞憂だった。
土方が団子屋に近づいていき銀時の前に立ったとき、銀時がガバッと立ち上がり、
「多串くん!!! 俺とけ、けつ……結婚してくださいぃぃぃぃ!!!」
と叫んだからだ。
神楽と新八はもちろん、通りすがりにソレを聞いてしまった周囲の人も、そして当人の土方も、ぽかんとして動きを止める。
まるでSF映画なんかで時間を止める装置を使ったみたいに。
が、もちろん時間は止まっておらず、我に返ったそれぞれが、それぞれに考えてポッと顔を赤らめた。
ここいらではわりと顔が広い銀時と、江戸中に顔が知られている土方が、まさかの"公開プロポーズ大作戦"を決行するとは。
喧嘩ばかりしているところ多々目撃されていたので、この界隈では"2人は仲が悪い、ものごっさ悪い"と認識されていた2人が、実は"仲良し"だったという展開は驚きと甘酸っぱさを覚える。
『本当は好き合っているのに恥ずかしくて素直になれなかったのかな。じゃあ2人を応援してあげなくちゃ』
という雰囲気が漂っていたのを、土方の怒声が蹴散らした。
「するかぁぁぁぁぁ!! この腐れ天パぁぁぁぁ!!!」
「ぐほぉっ!」
加えて銀時の腹に拳をのめり込ませ、銀時は鈍い声を上げ腹を抱えて地面に伏す。
その姿を見た面々は、一瞬でも"応援しなくちゃ"と思ったことを改めた。
『だよねー、やっぱりこの2人だとこういう感じだよねー』
そのまま土方は肩を怒らせながら立ち去ってしまうし、銀時は起き上がることもできずに、
「け、結野アナの嘘つきぃぃぃぃぃ」
なんて悲痛な声を上げている。
『あ、でも銀さんの片想いではあるのかな。ガンバレ、銀さん!』
"公開プロポーズ大作戦"が大失敗した銀時に同情の目が集まってる中、離れたところに居た新八と神楽だけは知ってしまった。
土方が自分たちのほうに向かってくるので慌てて物陰に隠れ、通り過ぎる土方を見たからだ。
煙草をスパスパとせわしなく吸い、顔を真っ赤にして、
「時と場所を考えやがれ、あのバカっ」
そう呟いたのをばっちり聞いてしまった。
2人はちらっと顔を見合わせて、やれやれと息をつく。
「……やっぱりあの2人付き合ってるアルか?」
「みたいだね」
「それにマヨラも満更でもなさそうネ」
「"時と場所"を考えれば、OKしてくれそうな感じだったよね」
「……仕方ないアルな。あそこで倒れてる腐れ天パを回収して慰めてやれヨ」
「仕方ないね。結野アナの名誉のためにも銀さんにワンチャンあげようか」
タイミングの悪い天パと、嬉しいくせに素直じゃないマヨラーのために、人肌脱いでやる子供たちだった。
おわり
似たような話を書いたことある気がします。
……500本も書いてりゃ、あちこち似るよね(開き直り)
新八と神楽が2人を心配するのが好き。