原作設定(補完)
□その51
12ページ/50ページ
#504
作成:2019/11/05
その日、新八は少しゆっくりめの出勤をしていた。
お妙の用事で寄り道をさせてもらったので、万事屋に向かっていたのは11時過ぎ。
「予定もねーからかまわねーよ」と言われていたので、別に急ぐこともなくゆっくり歩いていた。
……ところを、路地から伸びてきた細い腕に、ものすごい力で腕を掴まれて引きずり込まれてしまった。
「うわっ!? …………か、神楽ちゃん、おどかさないでよ」
荒っぽい仕事にも慣れている万事屋なので一瞬ヤバイ人かと焦ったが、そこに立っていたのは神楽でホッとしつつ文句を言ってみたところ、
「しぃぃぃぃっ!」
と口元に指を立てた神楽に制された。
しゃべるな、という仕草だったので新八は黙り、そして神楽に習って物陰に隠れる。
どうやら"こっそりと誰かを尾行している"ようだったので、急な仕事でも入ったのかもしれない。
神楽がそっと通りを見ているので、新八も続いてみたら、遠くに見えるのは銀時の背中だった。
「……え? 銀さん?」
「そうアル」
「どうしたの? また予備費持ち出してパチンコ?」
余裕のあるときに少しでも"もしものときのため"に取って置いてあるのだが、たびたび銀時によって持ち出されていた。
だがもしそうなら、
「だったら家を出る前にシバいてるアル」
逃げられる前に確保ののち奪取しなくてはいけないので、隠れて追いかけている場合じゃない。
「じゃあ、どうしたの?」
「……銀ちゃん……誰かにプロポーズするつもりアル」
「へえ、プロポー…………えええええぇぇぇぇ!!!!?」
「うるさいいアル!!!」
驚きのあまりに大声を出してしまった新八の口を、小声で怒鳴った神楽に塞がれた。
近くに居た人たちに注目されてしまったので、2人はさっと建物の影に隠れた後、ちょっとしてからまたそーっと通りを伺う。
銀時は気付かなかったようで、遠くなる背中を慌てて追いかける神楽を、新八も追いかける。
その間に小声で問いかけた。
「ど、どういうこと? プロポーズって誰に?」
「誰だか分からないから追いかけてるアル」
「え? じゃあ、なんでプロポーズするって分かるの?」
昨日、新八が仕事が終わってで帰るときは、そんな素振りもまったくない普通の銀時だったのだ。
いつそんな話になったのだろうと思う新八に、"万事屋・朝の恒例"事案だと教えられる。
「結野アナの占いネ」
「占い?」
「今日の"てんびん座で天パで仕事もなく家でゴロゴロしてるまるでダメなおっさん"は、プロポーズすると100%上手くいく、って言われたアル」
「……あー……まあ、それは銀さんに当てはまるだろうけど……でもそれだけじゃ……」
「それを聞いた後からずっと"ものもらいにふっさふさ"だったアル」
「……"物思いに耽って"いた?」
「それネ。それから何か決心したように出かけたから、つけてきたヨ」
「ふーん……でもさ、プロポーズってことは……付き合ってる人がいないとダメなんだよ」
「……いるアル」
「……えええ!!!……あ……い、いるって!? 恋人が!?」
また大声を上げそうになるが神楽に怒られる前に自分で止め、新八は動揺しながらそっと訊ねる。
少なくとも新八が一緒にいる間には、そんな気配も雰囲気もまったく感じなかったのに。
だが神楽のほうは一緒に暮らしているだけあるわけで、不満そうな顔で教えてくれた。
「銀ちゃん、たまに夜、こっそり出かけてたアル」
「夜? 飲みにじゃないの? それはこっそりじゃないよね」
「それは本当に飲みに行ってるときだけネ」
「……それとは別に出かけてるってこと?」
「そうアル。そして2時間ぐらいで戻ってくるアル」
「……に、2時間……」
「銀ちゃんもまだまだ盛りたい年頃の男アルから、そういう店に行ってしっぽりすっきりヤってると思ってたネ」
相変わらず露骨なことを言う神楽に気まずい新八だったが、言いたいことは分かった。
.