原作設定(補完)
□その51
1ページ/50ページ
#501
作成:2019/10/23
土方十四郎は、副長室で机の前に難しい顔をしていた。
机の上には一本のスプレー。
沖田から受け取った怪しさ満載のそのスプレーを、使うかどうかもう何時間も悩んでいる。
土方には付き合ってる者がいた。
出会った当初、そんな関係になるなんて露ほども考えたことのない相手と、そういう関係になった。
将来を約束することもできない、ずっと、望む限り一緒にいれるいとう保証もない相手。
だけど向こうはそれを簡単に口にする。
「ずっと一緒にいるよ」
できるわけない。
「やろうと思えばなんとかなるって」
そんな上手くいくはずがない。
「でも俺はできるって信じてるし」
なんの根拠もない。
「おめーがどう思うが、どうなろうが、俺はやるったらやるしぃ」
そんな軽く言われたって信用できない。
でも、信じたいと思っている自分もいる。
そんなことを考えて仕事に支障をきたしはじめた土方に、近藤たちが知恵と手段を出してくれた。
土方が付き合っていることも、相手も、近藤たちは周知していた。
ソレがとんでもない相手だと知っても、むしろ土方が"そういう関係"を望んでいることのほうが嬉しいらしい。
幸せならそれでいい、と笑って容認してくれたのに、土方が悩んでいると気付いて放っておけなくなった。
ただ、相手が相手だけに、口で説明して納得できる返事が得られるとは思えない。
どうしたらいいのか、と悩んでいたところに「簡単でぃ」と沖田が出してきたのが、このスプレーだ。
これを使えば"言っていたことが本当か"証明できる、と。
珍妙ではあるが、一理あるような気もした。
"効果時間"は2時間。
こんなものを使わなくても"信じればいい"だけだということは分かっている。
だけど、きっと今後も同じことを繰り返し悩むはずだ。
そんなのは御免だと、土方はスプレーを手に取った。
新八と神楽がでかけて、万事屋では銀時が一人留守番していた。
玄関の呼び鈴が鳴り、銀時はまずそっと部屋から玄関を覗いて見る。
相手が誰かを確認することが、めっちゃ金欠の万事屋には必要なことだった。
扉のガラスには、小柄な、おそらく女性の姿が映っている。
とりあえず"下の店の取り立て屋"ではないらしいので、次の呼び鈴で急いで応対に出た。
「はいはい、お待たせしてすみませーん」
言いながら扉を開けると、俯いているせいで顔が見えないけれど、なんとなーく見覚えのある姿の女性が居た。
見覚えのある前髪、見覚えのあるおさげ、見覚えのある着物、見覚えのあるごん太の体。
「…あの…?」
「……万事屋…話がある……」
そう言われ、顔を上げた女性を見てはっきり思い出した。
「………土方!?」
デコボッコ教による性別転換ウィルスで女性化したときの土方だった。
.