学園設定(補完)
□逆3Z−その5
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その日の夜、呼び込みをしていた金時は見覚えのある姿を見つけて"やっぱり"と内心で笑う。
スーツにメガネの"教師スタイル"の土方が、ちょっと不機嫌そうに近づいてきた。
昨日の私服姿を見ていたので銀時から三十路前という年齢を聞いて驚いたのだが、なるほどこの姿なら年相応に見える。
思ったとおりに現れて『しめしめ』と思っているのに、金時も不機嫌そうなフリをして言った。
「また来たんですかぁ」
「……まだ辞めてないのか」
"先生に見つかったので夜のバイトを自主的に辞めました"、というのを期待して確認しに来たらしい。
なので、
「急に辞めたら店だって困るじゃないですか。そんな無責任なことはできませんんん」
そうもっともらしいことを言ってみたら、狙い通りもっともだと思ってくれたらしく、土方は表情を少し和らげたが、
「……じゃあ、店に説明して早めに辞め……」
「いやですぅぅぅ」
へらっと笑って反抗した金時に、イラッとして眉間にシワを寄せた。
だが怒ったところで物分りが良くなるとも思えないし、だいたい公衆の面前で生徒を怒鳴りつけるというのもしがたい。
土方は溜め息をついて気分を落ち着かせると、普段の口調で"銀時"に言った。
「どうしたら辞めてくれるんだ? 夜のほうが時給が良いのは分かるが、見つかったらマズイだろ」
「別に時給が良いだけで選んだバイトじゃないし」
「他になにかあるのか?」
理由が分かればバイトを辞めさせる突破口になるんじゃないかと思った土方だったが、
「誰かさんにフラれた心の傷を癒やすために、ホストのお兄さんたちにモテる秘訣を教わろうと思って……」
寂しそうにそう言われ、胸にぐさりと何かが突き刺さった。
金髪にしたのもやっぱり自分のせいかと悩んでいたのに、さらにホストクラブでバイトまでさせてしまっていたとは。
怒鳴る気も失せて、優しく宥めるように説得する。
「そ、そんなことでここまで自棄にならなくても……お前ならすぐに可愛い彼女もできるぞ……たぶん……」
「ひどっ! 俺の本気の告白を"そんなこと"で済ますんだ……やっぱりホストになろう……」
「ちょ、ちょっと待て! お、お前が本気なのは分かってるけどな……教師が生徒と付き合うなんて、無理に決まってんだろ」
「バレないように上手くやってる教師だっているんじゃないですかぁ」
「いるだろうけど、俺は無理だ……そういう隠し事は苦手なんだよ……」
一応銀時の希望である"先生と学校でイチャイチャ"の可能性も確認してみたが、思ったとおり無理らしい。
なので金時は当初の目標に向かうことにした。
「……じゃあ、在学中じゃなければいいってこと? 卒業してからなら付き合ってくれんの?」
「……それは……また別な話だろ……」
「なにが? 俺は先生がそれでいいっていうなら待てるし、先生の言うことも聞くよ?」
「…………」
"銀時"からの提案に土方は眉間にシワを寄せて口を噤む。
ここで「分かった」と言うだけで、銀時は金髪もホストクラブでのバイトも止めて、告白する前のように素直で可愛い生徒に戻ってくれるのだろう。
だけど、少なくとも今の土方にとってそれは"嘘"だ。
銀時の"本気の告白"をその場しのぎの嘘で誤魔化してしまうことことになる。
そしてそんな土方の困惑した表情を見て、金時の胸もちくりと痛みつつ内心で笑ってしまった。
ここで「分かった」と言うだけで、銀時は告白する前の素直で可愛い……かもしれない生徒に戻ってくれるのに。
銀時がさんざん惚気てくれたように、真面目で不器用で優しい教師のようだ。
なのでちょっとだけ妥協してみた。
「先生さ、俺のこと嫌いか?」
「き、嫌い、ではない」
「どっちかと言えば?」
「……可愛い生徒だと、思ってる」
「まじでか」
「……まじ、だな」
「なら、いい。卒業したらもう一回告るから、改めて考えてください」
新たな提案に土方はホッとした表情を浮かべ、
「…………"分かった"」
そう言ってくれたので金時も"なんとなかった"と安堵する。
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