学園設定(補完)

□逆3Z−その5
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「たーだーいーまぁ」

早朝、元気良くそう言いながら帰ってきた金髪の坂田は、部屋の中を見てうんざりした顔になる。

部屋の隅で銀髪の坂田が頭上に暗雲を漂わせて沈んでいるからだ。

楽しい楽しい夏休みだというのに終業式にがっくり落ち込んで帰ってきてからずっとこの様子。

何があったのかと思っていたが、原因は当人から聞くことができた。
ので、言ってやる。

「土方先生に会ったぞ」

その名前を聞いて生気のない顔をしていた銀時が、ようやく顔を上げ、

「な…………なに、が……は?」

めいっぱい動揺したマヌケ面を向けた。

してやったりと金時はにやりと笑う。

「バイト中にお前と間違えられて注意された」

「……な、なんで、それが土方先生だって分かるんだよ……」

「"俺にフラれたせいで自暴自棄になって金髪にしたのか"って言われたし」

「!!!! 先生のおしゃべりぃぃぃ!」

それじゃなくても落ち込んでいるところに、金時に見えないパンチを幾つも食らって銀時は泣き崩れた。

片想いの相手がカッコ可愛くて、名前が"土方"だというのはついつい喋ってしまったのだが、土方が男で、しかもフラれてしまったことは黙っていたのに。

おまけに、

「俺ら、髪の色も違うし、付き合い長いヤツには見間違えられたりしねーのに、土方先生、あっさり間違えたなぁ」

ケラケラと笑いながら金時にトドメを刺された。

学校に提出した家族構成欄に同い年の兄弟がいるのも書いてあるのに、よーく見たら顔も微妙に違うのに、3年間も先生の周りをうろちょろしたのに。

その程度の興味しかなかったのかと、銀時はますます落ち込んでしまった。

そんな銀時を見て金時は思う。

銀時は世話になっていた遠縁の者とソリが合わず、県外の高校を受験して出て行ってしまった。

要領の良い金時はなんとか上手くやっていたし、銀時のこともフォローしていたつもりだったのに。

あれから二年ちょい。

一人暮らしのためのバイトと学校の両立が大変でやさぐれてしまっているかと心配したが、久しぶりに会った弟は嬉しそうに"片想いの教師"の話をするぐらいには元気だった。

まさかそれが男だとは思わなかったけれど、土方に会って銀時がフラレたことを知り、咄嗟に"お兄ちゃん風"を吹かせたくなったのだ。

銀時の横にしゃがみ訊ねる。

「で? どうする?」

「……なにが……」

「あの様子だと土方先生また店に来ると思うけど?」

「なんで」

「勘違いを訂正しなかったから、まだ俺のこと、お前だと思ってるんだよねー」

そのほうが都合が良いかと、銀時のフリして捨て台詞を吐いて隠れたのだ。

土方は泥酔の知人と一緒だったから諦めて帰ったけれど、後ろ髪引かれる様子で何度か振り返っていた。

だからきっとまた来る。

「……どうする、って……どうするんだ?」

銀時がそう言いながら、久しぶりに"お兄ちゃんに期待する目"を向けているので応えてやらなくては、と金時も頭を捻る。

「そうだなぁ…………お前、なんて言われてフラれたんだ?」

「……せ、生徒なんかと付き合えるか、って」

「ふーん……お前が嫌いって訳じゃねーんだろ」

「……嫌われてはいねーと思う……優しくしてくれたし……生徒としてだけど……」

「んー……じゃあ、あれだな。まず学生のうちに付き合うのは諦めろ」

「ええぇぇぇぇ」

「ああいうタイプは生徒とどうこうなってバレるんじゃないかってビクビクするのは嫌なんだよ。だから"対象外"だって決め付けてるから、押しても嫌われるだけだって」

「……う……」

「だからソレは卒業後に結論を出してもらうとして、今は、"そのつもり"でお前と仲良くしてくれるかどうか確認、だなー」

沈みきっていた銀時の心に一筋の光が差す。

"先生と学校でイチャイチャ"に未練はあるけれど、卒業後にでもワンチャンあるのなら努力は惜しまないもりだ。

銀時が真剣な顔になったので金時は嬉しそうに笑う。

「そんじゃ、お兄ちゃんが上手いこと言って聞きだしてやるから」

「……大丈夫か?」

「まーかーせーて。ホストになるための練習になるしね」

それを聞いた銀時が眉間にシワを寄せた。

「ホストって……本気なのか?」

「本気! だからあの家、出てきたんだしぃ」

高校卒業後の進路について遠縁の者と喧嘩になり家を出てきた、と言って押しかけてきた金時。

昔から女の子が好きで愛想が良く、おだてて持ち上げるのが得意で、それを活かせば確かに天職だと言えないこともないが。

それが土方に通用するかは分からないけれど、自分にはできそうもないことなので金時に期待するしかない銀時だった。


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