学園設定(補完)

□逆3Z−その5
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#100

作成:2019/07/23




「俺……先生が好きです! 付き合ってください!」

一学期の終業式の後、なかなか帰ろうとしない男子生徒が居るなぁと思ったら、そんなことを言われた。

だが唐突、というわけでもなく、そんな予感は日々、ヒシヒシと感じていたので土方の返事は、

「断る」

きっぱり一言即答だった。

それで諦めてくれれば楽なのだが、担任の男性教諭に告白するだけあって神経が図太い。

「えぇぇぇぇ!? なんで!?」

「なんで、って、生徒なんかと付き合えるか」

「「じゃあ、なんで俺に優しくしたんですかコノヤロー!」

「コノヤローってなんだコラァ! クラスの生徒に優しくするのは当然だろうが!」

「その義務感のせいで純情な生徒が勘違いしちゃうんじゃないか! 先生の、野郎コマシ!!!」

「や、野郎コマシ!? コラァ、坂田ぁぁぁ!!!」

言い逃げしてぴゅーっと教室を出て行った坂田に怒鳴りつけるが、土方はそれ以上追いかけることはしなかった。

確かに勘違いさせてしまったのには自分に責任がある。

坂田には両親がおらず、高校生にして一人暮らし。

保護者になっている遠縁はいるけれど、生活費はバイトで稼いでいるという境遇が気になって、ちょっと特別扱いしてしまった。

土方は深い溜め息をつき、自棄になって夏休み中にグレたりしないといいな、なんて考えるのだった。

が、夏休みが明ける前に結果を知ることになる。



「お妙さぁぁぁぁん」

「近藤さん、ちゃんと歩いてくれ!」

泥酔して足元フラフラの幼馴染の体を支えながら、土方は飲み屋街を歩いていた。

入れ込んでいるキャバ嬢が素っ気無いと言って、落ち込んだとき酒に付き合うのが土方の月イチの恒例になっている。

タクシーが捕まえられそうな通りまで歩いていく途中で、週末なので割りと人が多い中、見覚えのある顔を見つけてしまった。

「ただいまタイムサービス中でーす。イケメン揃ってまーす。あ、おねえさん、ちょっと寄っていきませんぁ」

"ホストクラブ高天原"という看板を持って、通りすがりの女性に声を掛けているのは、間違いなく坂田だった。

ただ、声も顔も軽い口調もいつもどおりだったけれど、目立つ銀髪が、さらに目立つ金髪になっている。

案の定グレてしまった、と思った土方は近藤を抱えたまま声をかけてしまった。

「坂田!!」

坂田は振り返り土方を見たけれど、なぜかきょとんとしている。

バイトは校則で禁止されていないけれど深夜は飲み屋は厳禁だし、ましてやホストクラブなんてもってのほかなのに、見つかってマズイと思ってる様子がない。

「お前っ、何してんだ、こんなところで!」

「…………呼び込みのバイト……」」

「呼び込み? ……いや、でもホストクラブはマズイだろ。それにその頭!」

「頭?」

「なんで金髪なんかに……お、俺にフラれたせいか? そんなことで自
暴自棄になるな!」

叱責と心配をごちゃまぜにしたような必死な様子で説得を試みる土方に、坂田のほうはじぃぃぃっと土方の顔を見つめ、

「…………土方、先生?」

問いかけるように名前を呼んだ。

なんだ、と思った土方だが、自分が学校でのスーツ姿とは違う身なりをしていることに気付いた。

童顔で威厳がないのが嫌で学校ではスーツと眼鏡を着用していたため、私服では誰か分からなかったのかもしれない。

「そ、そうだ」

「……へー……」

なんとなく気恥ずかしい土方をジロジロと見てから、坂田はふんとそっぽを向く。

「俺がどんな頭でどんなバイトしようと勝手だと思いますぅ」

「なっ……俺は心配して……」

「フッたくせに」

「……そ、それは……」

「もう俺にかまわないでくんない!? でしゃばりのおせっかい教師!!」

「でしゃばり!? おせっかい!? コラァ、坂田ぁぁぁ!!!」

言い逃げしてぴゅーっと店の中に入って行ってしまった坂田に怒鳴りつけるが、土方は近藤を抱えているせいでそれ以上追いかけることはできなかった。

今日のところは諦めて退散するしかないと、土方はむすっとしながら店から離れた。

のを、店からひょっこりと顔を出した坂田が見送り、にいっと笑うのだった。


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