学園設定(補完)

□逆3Z−その5
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#91

作成:2019/02/17




菓子屋の店先がバレンタインデーに向けての明るいディスプレイに変わったころ、帰宅途中の土方はよく知っている姿を発見する。

銀髪のもふもふっとした頭の男子生徒が、並べられたチョコレートの見本を食い入るように見つめていた。

学校帰りの制服+コートなので、周りの女性たちが『なんで男子が!?』とチラ見しているが、そんなのはおかまいなし……というか、気にならないぐらい真剣な様子だ。

それを見た土方は眉間にシワを寄せる。

彼が一生懸命に選んでいるチョコを渡したい相手に心当たりがあるからだ。

土方が教師をしている高校に、個性的な四人組が入学してきたのが昨年の春。

同じ中学からやってきた4人はクラスが分かれてしまい、土方のクラスにいる相方のところへ来るようになったのが坂田銀時だった。

休み時間や昼休みにいつもやってくる坂田に、『本当に仲が良いんだなぁ』と思っていた土方だが、彼の狙いが土方だったのを知ったのが去年の秋。

バレてからというもの坂田はなにかにつけて土方の周りをうろちょろするようになった。

いままでの経験上、高校生なんて強引でうるさくて面倒くさいだけだったのに、坂田は意外と気が利いていて近くにいても煩わしくない。

どうやらなかなかの苦労人らしく、いろんなバイトをしているので気配りが身についたのだろうという話だった。

そんな居心地の良さは、教師なんて職業で疲れ切った土方を癒やしてくれるのには十分で、そんな相手を拒絶しつづけることは無理なもので。

だが教師である以上は生徒に手を出すことも、手を出されることもできない。

そんなわけで、"今はまだ坂田に興味のないフリをしている土方"こそが坂田がチョコを渡す相手だ。

だが土方は甘い物が苦手だし、学校では公然と土方にまとわり付いている坂田でも本気チョコなど出されたら複雑だし、正直に言えば困る。

『……だけど何を言ってもチョコは持ってくるんだろうな……せめて人前で出さないでくれたらいいんだが……』

そんなことを考える土方だった。




そして2月14日、バレンタインデー当日。

割と校則が緩くチョコぐらいは黙認されているものの、土方は前述のとおり嬉しくないので直接渡される物は丁重にお断りしている。

が、それが分かっている生徒も無記名で下駄箱に入れたり、職員室の机の上に置かれていたり、朝のHRで自クラスに行ったら教壇に積まれていたり。

「……去年も言ったがこういうものは受け取れない。各自持って返れ」

なんてつれないことを言ってみるのだが、生徒も慣れたものだ。

「私たちじゃありませーん。他のクラスの女子じゃないですかぁ」

「……誰が置いていったかは……」

「知りませーん」

と楽しそうにしらばっくれられたので、土方もしぶしぶ回収するしかなかったりする。

ちらりと『この中にアイツのチョコが入ってたりするかな』なんて考えたのが、それは"有り得ない"ことだというのを偶然耳にした。

休み時間に自クラスの前の廊下を通りかかった土方は、教室の中から坂田の声が聞えて足を止める。

いつものように坂田が例の友達と話しているところだった。

「というわけで、土方は山ほどチョコを貰っていたぞ」

「まじでか。いいなぁ、チョコ食い放題じゃん」

「そこかよ。ピンチだと思わねーのか」

「あ? 大丈夫、先生、生徒には興味ないから」

「それじゃあおんしにも興味がないんじゃなかかー」

「どうせお前も土方に渡すチョコを買ってあるんだろうが」

「ないない。買ってあるわけねーじゃん」

明るく素っ気無くそう言った坂田に、土方の胸がチクリと痛む。



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