学園設定(補完)
□逆3Z−その5
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#88
作成:2018/12/27
土方十四郎は自宅のアパートへ続く夜道をトボトボと疲れた足取りで歩いていた。
学校は冬休みに入っているけれど、受験生にクリスマスも年末年始もないように、担任教師にもそれらはない。
生徒たちが頑張っているのだから、土方も出来るだけのことを精一杯にやり続けている。
生徒のためにも弱音を吐いてはいられないけれど、一人のときぐらい疲れた顔ぐらいしたい。
これから一人暮らしの寒くて寂しい家に帰らなければならないことを考えると、更に疲れてしまうのだが。
明日も登校しなければならないので、とにかく適当に腹に詰めて風呂に入って寝よう、と考えながら自分の部屋の前まで来た土方は眉間にシワを寄せた。
部屋の明かりが点いている。
消し忘れて出かけてしまったのか、それとも……。
ドアノブに手をかけ回したら何の抵抗もなく、ドアが開いて土方は溜め息をついた。
玄関に見慣れた自分のものでない靴があったからだ。
『何してんだあのヤロー』
ムカついたその気持ちは、部屋の奥に進むにつれて和らいでいく。
明るくて暖かい、良い匂いのする部屋。
癒やせないと思っていた疲れが、それだけですーっと取れていく気がした。
そしてリビングに入ると、わざとらしいぐらい笑顔で銀時が迎えてくれる。
玄関が開いたのに気付いたくせに、怒られると思って迎えに出て来なかったのは、
「先生、おかえりなさーい」
「…………どうやって入った」
「え? えっと、鍵が開いてた、から?」
「そんなわけねー。どうやって入った」
「…………合鍵で入りました」
という悪さをしたからだ。
土方は合鍵を渡していない。
ということは、部屋に置きっぱなしになっていた合鍵を勝手に持ち出したのだろう。
だが前に銀時が部屋に来たのは三週間も前だ。
その間、合鍵が無いことに気付かなかった失態と、ずっと放置してしまった負目がある。
「……で、でもっ、先生疲れてるみてーだったし、冬休みに入ったら俺も時間に余裕できるし、何か手伝えねーかと思って……」
怒られると思って必死に言い訳する銀時を、土方は黙って見つめた。
それが余計に銀時を不安にさせたらしく、
「……ごめん……じゃあ、俺、帰るから……」
しょんぼりしてそう言われたので、土方も言ってやる。
「いい」
「え?」
「帰らなくていい。それより腹減った」
「! うん! すぐ準備するよ!」
ようやく嬉しそうな顔の銀時を見て、土方の疲れもようやく吹き飛んだ。
きっと土方の好きなものばかり並ぶだろう料理を想像して、3週間放ったらかしにしたことを遠まわしにさりげなーく詫びようと思うのだった。
おわり
受験生の年末は教師も大変だろうな、と。
あ、銀時は受験生じゃないっていうのを入れ忘れた。
料理好きで専門学校に行くことになっている、という設定だったような。
ま、いいか。