学園設定(補完)

□逆3Z−その5
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#85

作成:2018/12/11




「先生、クリスマス空いてたら俺と一緒にやらね?」

「……何をだ」

「クリスマスパーチー」

「何でだ」

「それは、そのぅ……何度も言ってるけど、俺、先生のことがす……」

「断る」

「せめて最後まで聞いてくんない!?」




クリスマスイブ、買い物からの帰宅途中の土方は疲れたため息をついて携帯を閉じた。

12月に入ってから自クラスの男子生徒の坂田銀時と、冒頭のやりとりを繰り返すこと数十回。

何度断っても次の日には立ち直って同じことを聞いてくる。

冬休みに入ってしまえば諦めるかと思ったのに、今の世の中には”携帯電話”という便利なものがあり、どこにいても繋がってしまうのだ。

努力は認めるが、教師としてはその努力は勉強のほうに使ってもらいたい。

どうしたら諦めてくれるのか。

告白されたとき、「生徒と付き合うなんて面倒なことはいやだ」と断った。

それは事実で本心で、それ以上で以下でもない。

”男だから嫌だ”とは思わなかったし、”嫌いだから”とも思ってない。

むしろ普通になついてくる分には可愛い生徒だともいえる。

ただ土方には隠していることがあった。

教師になって6年。

整った顔立ち、ストイックな性格、しゅっとしたスタイル、文武両道の土方は控えめに言ってもモテた。

生徒に告白されるのだって毎年のことで、”またか”とうんざりするぐらい。

本当は教師にもアプローチされることはあったが、それもやんわりと拒絶し続けてきた。

交際に興味がない、というわけでもない。

アパートに着いて部屋に入り、買ってきたものをテーブルの上に置いてから辺りを見回し、ふっと自嘲気味な笑みを浮かべる。

卒業前の3年生を抱えた独身の男性教師、という条件を差し引いても”ヒドイ”と言えるぐらい、部屋が散らかっていた。

袋に詰めたままのゴミ、洗ってない使用済みの食器、脱いだままの衣服。

そう、土方の唯一にして最大の欠点は、”面倒くさがり”。

片づけたいという気持ちはあるのだが、途中で面倒くさくなってしまうのだ。

そんな土方が面倒なことだらけの”生徒との交際”のみならず、”体面を保った”普通の交際だってその気になるはずもない。

学校ではギリギリ”教師”としてだらしないところを見せられない、という見栄だけで過ごしていた。

それがバレるのさえ面倒なのだ。

そんな最低な理由で真剣な告白を断られている坂田が気の毒と思えないこともない。

「……ま、いいや……」

深く考えるのも面倒になって、土方はイブだというのに買ってきた弁当をテーブルに置いてキッチンへ向かう。

冷蔵庫を開けて眉間に皺を寄せ、備蓄を入れとなっている食器棚を見て青ざめた。

「ま、マヨがねぇぇぇぇ!!!」

そう叫んでしまうぐらい土方はマヨネーズが好きで、かなり過度なマヨラーなのだ。

そろそろ無くなるから補充しなくてはと思っていたのに、日々の疲れのせいですっかり忘れていた。

しかも今日の晩飯は、普通の幕の内弁当の他に焼きそばを買ってきた。

「焼きそばにはマヨだろ……マヨなしで焼きそばは食えねーだろ……」

絶望的な気持ちになるが、たった今、帰ってきたばかりの寒空の中、もう一度出かけるのも面倒だ。

我慢してマヨなし焼きそばにしようかとも思ったのだが、そんな妥協はマヨラーとしてのプライドが許さない。

それでも渋々という気持ちで、寒空の中、もう一度出掛けようとしたとき、玄関のチャイムが鳴った。


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