原作設定(補完)
□その50
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その夜、ちょっと遅れてきた土方を迎えた銀時は、いい感じに酔っ払っていた。
「お疲れ〜」
土方の顔を見るなりへらっと笑う銀時に、花火の件でずっともやもやしていた土方の気分も晴れる。
いつも通り酒飲んでくだらない話をして、その気になったら近場の宿に入ってイチャイチャする。
そんないつもの"それだけの良い関係"になるはずだ。
そう結論付けた自分にちくりと胸を痛めながら、土方は店の親父に声をかける。
「親父、いつもの」
「へい、いつもの"おまかせ"で……それにしても土方さん、久しぶりですね〜」
「警官は忙しくしてねーと市民の皆様に叱られるからな」
冗談交じりに応える土方に、上機嫌の銀時が嬉しそうに話に割り込む。
「それにしたって急がしすぎだよねぇ。親父のために、もっと来てくんないとさぁ」
「そういう銀さんも、土方さんが一緒じゃねーと全然こないけどね〜」
「仕方ないんですぅ。この店、甘いもんが好くねーんだもん。もっとこう、パフェとかパフェとか……パフェ的なもん置いてくんないと」
「銀さん、ここは酒飲みに優しい居酒屋だよ」
「俺は酒のアテにパフェもイケるんですぅぅ」
銀時はそんなことを言っているけれど、土方は分かっていた。
2人人で酒を飲むときこの店に来るのは、土方がこの店の料理とか酒を気に入ってるから。
料理も美味いし酒も美味いし、店の雰囲気のせいか客層が少人数で静かに飲むタイプが多くて落ち着く。
銀時はきっと大人数で大騒ぎしながら飲むのも好きなのだろうが、土方と一緒のときは何も言わず合わせてくれていた。
意外にもそんな優しいところがあるけれど、それはきっと自分だけに対してじゃないだろうと土方は思う。
だから、沖田によけいな話をされてさんざん心配したけれど、銀時が花火大会に誘ってくることはない、と結論付けてすっかり油断してしまった。
目の前に酒と料理が並んで手をつけようとしたとき、
「……あ! そういえば……花火大会、一緒に行きませんか」
思い出したように銀時がそう言いだして動きが止まる。
それに気付かない銀時が続けて、
「ら、らしくねーかもしんねーけど、まあ、夏っていえば花火が定番だし? それ見ながらビールなんて飲むのもオツなんじゃねーかと思って。地元民ならではの穴場なんても知ってるからゆっくり見れると思うんだよねー……ほら、なぜか花火大会でばったり遭遇したこともないしさ、たまにはいいんじゃないかな、なーんて」
ペラペラと言い訳がましく話すので、例の話を知っていて誘っているのだと思ったら、"体が反応"した。
銀時のほうは一気に話してしまってから、なぜ"ばったり遭遇したことがない"のかを思い出したらしい。
「…………あ!! もしかして、警護の仕事が入ってたりす………………土方?」
"仕事で無理"の可能性をすっかり忘れていて、だとしたら絶対無理なのに余計なこと言っちゃったな、なんて思いながら土方を見てポカンとする。
土方は正面を向いたまま顔どころか手まで真っ赤にしていた。
ビールは手付かずで酔っているわけでもなく、それでも"理由"はすぐに思いつく。
なにせ"思考は似通っている"のだから。
「も、もしかして…………知ってる?」
銀時に"知ってること"を知られた土方は、さらに顔を背けるのが精一杯で、それを見た銀時がへろへろと崩れ落ちてカウンターのテーブルに頭をごつんとぶつけた。
その音を聞いた土方がチラリと視線を向けると、テーブルに突っ伏して悶絶している銀時の顔は真っ赤で、きっと自分も同じような顔をしているのだろうと察す。
"一緒に花火を見て永遠に別れないで済むようにしたい"と思ってくれた。
迷惑だとか面倒くさいとかも考えていたはずのに、今は嬉しい気持ちのほうが強い。
すごく強い、ことをようやく自覚した。
未だ動けずにいる銀時に聞えるか聞こえないぐらいの声でつぶやくが、
「……行く……」
「…………!! え!?」
ちゃんと聞えていたようで、銀時はがばっと顔を上げる。
「……行く。ちょうど非番だし……」
「…………ま、まじで?」
自信なさそうに情けない声でそう確認され、土方はふっと嬉しそうに笑った。
初めて2人で見た夜空を染める大輪の花火は、"永遠に別れない"と信じられるぐらいに綺麗だった。
と、すんなり上手くいけば、この話は続かないのである。
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